第五章 見限られた少年

1/3

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ

第五章 見限られた少年

 それから数日が経ち、唯の右腕は完治した。屋敷に足を運んで待っていると、一人の少年がやってきた。少年が着ているものはシンプルだが、小綺麗だった。普通の生活を送っているように見えた。 「ここで、合ってる? 〝折り合い人〟を探してきたのだけれど」 「オレがそうだ。依頼内容は?」  唯が低い声で尋ねた。 「面倒しか起こさない友達を、二度と動けなくしてほしい。縁を切っても、まとわりつかれて、嫌なんだ」  少年が言いながら五千円をテーブルに置いた。 「オレに依頼をするということは、もう引き返せなくなるんだぞ。お前も罪人になる。その罪を背負っても、生きる覚悟があるか?」  鋭い視線を少年に向けた。 「あいつがいなくなるんなら、それくらい、背負ったっていい」  少年は真っ直ぐに見つめ返しながら言った。 「相手の名前は?」 「(きの)()(しょう)(へい)。依存されていて、どうにもできないんだ」 「決行は今夜だ」  少年は頭を下げると、屋敷を出ていった。  少年が去った後、五千円をポケットに仕舞うと、アタッシュケースを持って家に帰った。 「帰ったぞ」  仮面を外しながら、玄関で声を出した。 「お帰りなさい。今回はどんな依頼ですか?」  伊織が玄関までやってきて尋ねた。 「面倒しか起こさない友達を、二度と動けなくしてほしいそうだ」  唯は溜息を吐きながら言った。 「そうですか。戻ってくるまでの間に、救急箱の整理をしておきましたよ」  唯は無言でポケットに押し込んでいた五千円を財布に移した。 「いってくる」  目の色を変えつつ、仮面を被りながら、唯が言った。 「いってらっしゃい」  その声にうなずきながら、唯は思った。  ――誰かが家で待っていてくれるというのは、いいものだな。生きて帰ってこなければ、という気にもなる。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加