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第五章 見限られた少年
それから数日が経ち、唯の右腕は完治した。屋敷に足を運んで待っていると、一人の少年がやってきた。少年が着ているものはシンプルだが、小綺麗だった。普通の生活を送っているように見えた。
「ここで、合ってる? 〝折り合い人〟を探してきたのだけれど」
「オレがそうだ。依頼内容は?」
唯が低い声で尋ねた。
「面倒しか起こさない友達を、二度と動けなくしてほしい。縁を切っても、まとわりつかれて、嫌なんだ」
少年が言いながら五千円をテーブルに置いた。
「オレに依頼をするということは、もう引き返せなくなるんだぞ。お前も罪人になる。その罪を背負っても、生きる覚悟があるか?」
鋭い視線を少年に向けた。
「あいつがいなくなるんなら、それくらい、背負ったっていい」
少年は真っ直ぐに見つめ返しながら言った。
「相手の名前は?」
「紀知祥平。依存されていて、どうにもできないんだ」
「決行は今夜だ」
少年は頭を下げると、屋敷を出ていった。
少年が去った後、五千円をポケットに仕舞うと、アタッシュケースを持って家に帰った。
「帰ったぞ」
仮面を外しながら、玄関で声を出した。
「お帰りなさい。今回はどんな依頼ですか?」
伊織が玄関までやってきて尋ねた。
「面倒しか起こさない友達を、二度と動けなくしてほしいそうだ」
唯は溜息を吐きながら言った。
「そうですか。戻ってくるまでの間に、救急箱の整理をしておきましたよ」
唯は無言でポケットに押し込んでいた五千円を財布に移した。
「いってくる」
目の色を変えつつ、仮面を被りながら、唯が言った。
「いってらっしゃい」
その声にうなずきながら、唯は思った。
――誰かが家で待っていてくれるというのは、いいものだな。生きて帰ってこなければ、という気にもなる。
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