第五章 見限られた少年

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 頭を切り替えて、紀知祥平の住む家に向かった。表札を見て、目の色を銀色に変えつつ、ドアを蹴破った。が、誰も出てこない。首をかしげつつ、土足で上がり込み、一階を見て回った。親はいないのかもしれない。二階へ上がると、突き当たりの部屋から、一人の少年が出てきた。 「さっきの大きな物音、もしかして、あんたがやった?」 「そうだが?」  唯は冷ややかな声で返した。 「なにをしにきたの?」 「紀知祥平に用があってな」 「それならぼくだけれど、用事ってなに?」 「貴様に絶望を届けにきた」  恐ろしいほど冷たい笑みを目にした少年は、いったん部屋へ戻った。待っていると、カッターを手にしていた。 「なにをしたって言うんだ!」 「自分の心に問いかけてみろよ。自分の異常性に気づかない、馬鹿ではあるまい?」  笑みを崩さず、唯が言った。 「なにを言っているのか、さっぱり分からない!」  少年は怯えを隠すように、声を張った。 「貴様は、自分の異変にも気づけないのか。そうか、気づいていないとはなぁ。くくっ」  唯は低い声で言い、嗤った。 「なにがおかしい!」  声が震えてしまい、少年は顔を歪めた。 「依存しているというのは、自分では分からないものなのか、なぁ?」  唯の嘲笑いが続く。 「なんの話をしているんだ!」 「止めだ。貴様には直接分からせてやる」  唯は笑みをかき消して、低い声で言いながら刀を抜いた。  艶やかな黒い刀身があらわれる。 「黙って殺されるわけにはいかない! そんなの認めない!」  そう言い放った少年だったが、カッターを握る手が、ガタガタと震えている。 「殺しはしない。だが、貴様には地獄を与えてやるよ」  唯は言いながら、刀を構えて突っ込んだ。  少年は襲ってくるであろう痛みから逃れるために、カッターを突き出した。  それはたまたまだが、唯の腹を刺していた。  不敵な笑みを崩さないままの唯は、少年の左腕を切断した。 「あああああっ! 痛い痛い痛いっ!」  悲鳴と同時に、二度と動かない左腕が床に落ちた。
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