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「頼む」
唯はそれだけ言った。
「刺し貫かれてはいないようですね。しかもナイフでないのなら、塞がるのも早いかもしれません」
伊織は言いながら、手当てをすませた。
「ありがとうな。……もう、泣いていいぞ?」
唯は低いながらも、優しい声で言った。
「こんなに古傷だらけなんて……! どうして、平気な顔をしていられるんですか……!」
伊織は口を左手で覆い、右手で溢れる涙を拭った。
「自分を大事にすることを、一切止めた。そうしなければこんな身体にはならなかっただろう。だが、そうしなければ、オレは生きられない」
泣いている伊織をよそに、唯は残酷な言葉を口にした。
「こんなに傷ついているんですよ! なのになんで、なにも言わないんですか!」
伊織は言いながら、嗚咽を噛み殺そうと躍起になった。
「そんなにも哀しいのか。何故?」
唯は泣く伊織を見ながら尋ねた。
「痛い思いをし続けてきたというのが、分かるからです……! とても辛かったでしょうに、ずっと、独りで抱え込んできたんですか!?」
「そうだよ。オレはどんな辛い目に遭っても、自分の力だけで乗り越えるほかなかった。誰もいなかったし、いたとしても話したりはしなかっただろうさ」
低い声で言いながら、唯はつっと、伊織の左頬を撫でた。
「っ! ……なに、を?」
伊織は身を固くした。
「オレなんかのために、涙する者を、初めて見たんだよ。この身体を目にして、すべてを理解しているというのに」
唯は低い声で呟いた。
「こんなに哀しい人が、この世界にいるなんて、思わなかったんです!」
泣きながら伊織が怒鳴った。
「なぁ」
「なんですか?」
泣きながら伊織が答えた。
「オレはもう、身体も心も穢れきっている。感情は、生きるために、斬り捨てるしかなかった」
「なんで、そんな大事なモノを捨てちゃったんですか!」
伊織が怒りを爆発させた。
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