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彼が、肩越しに振り返った。
左頬に返り血がついていたが、それは雨で流される。惹かれるほど美しい銀色の目だが、恐ろしいほど鋭く、冷たい視線だった。
「僕はなにも見ていません。聞いてもいません。ここであったことは誰にも言いません」
そう言って立ち去ろうとしたが、肩をつかまれてしまった。
びくりと、身体が震えた。
「なに、命を奪うつもりはない。といっても、武器を手にしていては、説得力がないな」
刀が鞘に収まる音が響いた。
「僕に、なんの用ですか?」
「ちょっと話を聞きたいだけだ。怪我は……していないようだな。雨が凌げるところへいこう。……オレは、三津野唯だ」
「分かりました。……僕は、境伊織です」
唯が先に歩き出した。
すれ違い様に、視線を向けると目の色が銀ではなく、黒になっていた。
その後をついていきながら、伊織はますます混乱した。
――この男は何者なのだろう?
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