第六章 唯の身体に刻まれた、数えきれないほどの苦痛

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 伊織は身を固くしたが、その言葉を聞いて思わず、引き締まった身体に片腕を回した。泣きながら額を胸に押しつけた。 「そうか、そんなにも哀しいのか。俺はここにいる。……伊織」  唯は低い声で名を呼んだ。 「唯さん……! 僕は、あなたのことが、好きですっ!」  しゃっくりをしながら伊織が言った。 「オレの穢れ切ったこの心を、伊織は、受け()れてくれるのか……?」  低く、優しい声で、唯は尋ねた。 「……拒む理由なんて、ないです。それに、中途半端な気持ちで、告白したんじゃないです!」  伊織は泣きながら言った。 「それは、分かっている。落ち着くまで、こうしているから」  唯は伊織の背中を擦った。  伊織は唯に抱きしめられたまま、泣き続けた。  それから三時間が経ち、伊織は唯の腕の中で、寝息を立て始めた。泣き疲れてしまったのだろう。  唯はそっと伊織を抱き上げて、ベッドに寝かせた。泣きすぎて頬に痕が残っている。  そんな伊織の頬をつっと撫でた唯は、いったんベッドから離れて、ワイシャツを羽織った。  眠っている伊織を眺めながら思った。  ――まさか告白されるとは。嫌いではなかったが。そんなにも想ってくれていたことには感謝しかない。せめて、夢の中では、安らかであれ。  その願いも込めて、唯は伊織の右頬に口づけを落とした。
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