第七章 進展して迎える目覚め

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第七章 進展して迎える目覚め

 翌日の夜、伊織は目を覚まし、身体を起こして伸びをした。 「うーん……」 「起きたか」 「えーと、泣き疲れて寝ちゃったんですね」  伊織は苦笑した。  唯がさっと、伊織を抱え上げた。 「っ! 少しは、寝たんですか?」  抱き上げられたことに驚きつつも、伊織が尋ねた。  唯はそのまま、ベッドに腰を下ろした。 「ああ。伊織の寝顔を見ている方が、楽しかったがな」 「悪趣味です」 「どこがだ?」  唯はふっと笑いながら言った。 「ずっと見られていたと思うと、恥ずかしいです」 「素直だな」  唯はぎゅっと抱きしめる腕に力を込めた。 「傷に障りませんか?」 「大丈夫だから、こうしている」  唯の言葉を受け、伊織は顔を赤らめた。 「まったく、抱き上げただけでこの反応だもんな。可愛い奴め」  唯は言いながら、ついっと伊織の頬を撫でた。 「?」  きょとんとした伊織に笑みを浮かべた唯は、そっと口づけた。 「っ!?」  突然のことに、目を見開いたまま固まってしまう伊織。  しばらくして、そうっと唇が離れる。  止まっていた息が、ふうっと吐き出された。 「その顔……。そうか、ファーストキスだったのか」 「そうですよっ! 恥ずかしいことを、さらっと言わないでもらえます!?」  伊織がニヤリと笑う唯を見ながら、顔を真っ赤にして言った。 「初心(うぶ)だな。その反応が、またいいんだ」  ニヤリと笑いながら、唯は囁いた。 「僕を殺すつもりですか? 見た目がかなりいいのに、そんなことをされると、顔を赤くするしかないんですけれど」 「照れろ照れろ。可愛い伊織の顔が見たい」 「ドSですね」 「だったらなんだ?」 「自覚はあるんですね」  伊織は視線を外した。 「そりゃな」 「ずっと気になっていたんですけれど、どうして依頼をこなすときに、僕を連れていかないんですか?」  伊織が視線を唯に向けて尋ねた。 「……オレがどう傷ついたのか。それを見せることで、伊織が辛い想いをする、それを避けるためだ。それから、オレが普段から目にしている、この世界の闇を見せたくない」 「優しいですね」 「そうか?」 「ええ、とても」 「あの傷を見せただけで、ここまで進展するとは、思っていなかった」 「そうかもしれませんね。僕も驚いています」 「後悔、していないか?」 「していませんよ。僕はあなたを独りにする気はありません」  伊織は即答した。  唯はただ、ぎゅっと抱きしめた。
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