第八章 唯の正体を知る人物

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第八章 唯の正体を知る人物

 数日ぶりに屋敷を訪れた唯は、テーブルの上に、小さな紙が置かれているのを目にした。  紙を開いて内容を確認する。 【地獄に堕としてほしい人がいます。翌日にお金を持っていきますので、そのときに詳細をお伝えします】  そう、読みやすい字で書いてあった。 「昨日、誰かがきていた、というわけか……」  唯は呟くと、壁に背を預けて待った。  十五分ほど待つと、一人の女が部屋に入ってきた。 「あら? もしかして……? 待たせてしまったようで、すみません」 「構わない。これを書いたのはお前か?」  唯は紙きれを見せながら尋ねた。 「そうです」 「依頼内容は?」 「市野瀬樹(いちのせいつき)という男性の心を、殺してください。お金ならあります」  女は低い声で言った。 「金はそこのテーブルに。それで、何故?」  唯は尋ねた。 「謎めいていて、怖いからです。かつての一族の話をされても、なにも分からないので」 「かつての一族……。金は、四十万か。今夜決行する。明日の朝、ここへこい」  唯は言いながら、金をアタッシュケースに詰め込み、ロングコートを翻して、屋敷を出ていった。  その足で銀行に寄り、金をすべて預けると、帰った。 「帰ったぞ」  唯は自室に入りながら声を出した。 「お帰りなさい。今回はどんな依頼でしたか?」  床にちょこんと座った伊織が尋ねた。 「ある男の心を殺してほしいんだと」  唯は言いながら仮面をつけたまま、隣に座った。 「仮面をつけていても、カッコいいですね」  伊織が笑った。 「悪い気はしないな。……そろそろ、いく」  唯がふっと笑った。 「いってらっしゃい。ちゃんと、帰ってきてくださいね?」 「ああ」  唯は不敵に嗤うと家を出ていった。
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