第八章 唯の正体を知る人物

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 出発してから走ること二十分が過ぎ、朽ち果てた廃墟の前で足を止めた。  依頼人から、よくこの場所にいると聞いていたのだ。 「さて、どんな一族なのやら」  唯は呟きながら、目の色を銀に変えると、中に足を踏み入れた。 「誰だ!」  中にいる誰かが振り返った。 「貴様に地獄を届けにきた」  低い声で言うと、唯は不敵に嗤った。 「その目……! お前、龍神(りゅうじん)だな?」 「何故分かる? 貴様は誰だ」  唯は警戒を滲ませつつ声を出した。 「私かい? 龍神を支えていた一族の、生き残りさ」  男が言いながら、ナイフを見せつけてきた。 「ならば、オレの罪も知っているわけか」  唯は言いながら刀を抜いた。 「勿論(もちろん)。私はね、君に復讐をしたくて、ずっと捜していたんだ」  暗い目をした男が言った。 「あの出来事で、恨みを買っていると思ってはいたが。貴様以外の全員が巻き込まれて死んだことを、恨んでいるのか? 当時、貴様は子どもだったはずだが」 「そうさ! 子どもだったから、なにもできずに逃げるしかなかった! あの出来事さえなければ、すべてを奪われることはなかった!」  男が感情任せに叫んだ。 「失ったのは、オレも同じだが。……恨みを晴らしたいのなら、こいよ。付き合ってやる」  唯は溜息を吐きながら言った。 「なにを偉そうに! 私のすべてを奪っておいて!」
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