第八章 唯の正体を知る人物

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 男はナイフを二本投げつけ、距離を詰めてきた。  投げられたナイフは、右肩と左胸に刺さった。 「動じないときたか。強がっているだけでは?」 「どうだろうな」  唯は言いながら、右手で繰り出されたナイフを受け止めた。掌を刺し貫かれたが、表情に変化がない。 「これで、どうだ!」  突き刺したナイフから手を離し、別のものを握ると、上から振り下ろした。  ざっくりと、胸と腹を裂かれた。 「反撃がないとは、思っていなかろう?」  口端から鮮血を滴らせたまま、唯は不敵に嗤い、刀を振り下ろした。  斬られたのは、男の左腕。 「ぎゃあああああっ!?」  地面に転がってもう二度と動かせない左腕を見ながら、激しい痛みに叫んだ。  その間に、唯は右手に刺さったナイフを抜いて捨てた。  痛みでそれどころではない男を冷ややかに眺めつつ、自分の身体に刺さったナイフを次々に抜いていった。  鮮血に染め上げられたナイフが、いくつも地面に落ちた。 「ああああっ! 殺すっ、殺すっ!」 「動けなくしてやるよ」  唯は不敵に嗤うと、傷を気にする素振りすら見せず、刀を薙いだ。  右脚が斬られた。 「くそおおおおおっ!」  男の叫び声が、唯の耳を刺した。  うるさそうに顔をしかめると、男の前に立った。  男の苦痛と憎悪に染まった目を正面から見つめたが、唯の目は冷たいままだった。 「ほ、(ほむら)……!」  男が口にしたのは、唯の龍神としての名だった。 「そう呼ばれるのは、かなり、久しぶりだ。龍神を支えていた一族の生き残りというのは、本当だったんだな」  唯は低い声で言うと、喉を刀で刺し貫いた。  青い顔をした男を一人残して、刀を仕舞った。  血の痕を残しながら、その場から去った。  いったん屋敷に足を運び、以前依頼人が書いた紙の裏に、【依頼は達成した】とだけ書いてテーブルに置いた。  ふらつきながら、歩き続けた。
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