第九章 龍神

1/2
前へ
/28ページ
次へ

第九章 龍神

「……帰った、ぞ」 「お帰りなさい。……ちょっと座っていてください。いろいろ、取ってきます」  伊織はそう言うと、いったん部屋へ引っ込んだ。  なんとか腰を下ろして待っていると、救急箱だけでなく、タオル、鋏を持った伊織が戻ってきた。 「深手なのは分かっています。服を切りますが、構いませんか?」  唯はうなずくことしかできない。  伊織はロングコートとジャケットを脱がせ、ワイシャツを鋏で切り始めた。  ワイシャツを脱がせると、伊織が辛そうな顔をした。 「背中まで、貫かれているわけでは、ない」  上手く喋れなかったことに苛立ったのか、唯が顔をしかめた。 「それでも、痛いですよね?」  伊織は手を動かしながら言った。  タオルで左胸の刺し傷から零れる鮮血を何度も拭うも、キリがない。唯はそれが無理ならと、ガーゼを何枚か重ねて、傷に当てた。端を白いテープで固定していく。  右肩と胸から腹にかけての斬り傷、刺し貫かれている右手にも、同じように手当てをした。  それが終わると、包帯を取り出して、上半身を覆った。最後に右手を包帯で覆うと、伊織は泣きそうになりながら、唯を抱きしめた。 「ありがとう」  伊織はうなずくと身体を離し、唯を支えながら、部屋のベッドまで連れていった。  横になったのを確認して、玄関に置いてきたものを片づけ、ベッドのところへ戻った。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加