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第九章 龍神
「……帰った、ぞ」
「お帰りなさい。……ちょっと座っていてください。いろいろ、取ってきます」
伊織はそう言うと、いったん部屋へ引っ込んだ。
なんとか腰を下ろして待っていると、救急箱だけでなく、タオル、鋏を持った伊織が戻ってきた。
「深手なのは分かっています。服を切りますが、構いませんか?」
唯はうなずくことしかできない。
伊織はロングコートとジャケットを脱がせ、ワイシャツを鋏で切り始めた。
ワイシャツを脱がせると、伊織が辛そうな顔をした。
「背中まで、貫かれているわけでは、ない」
上手く喋れなかったことに苛立ったのか、唯が顔をしかめた。
「それでも、痛いですよね?」
伊織は手を動かしながら言った。
タオルで左胸の刺し傷から零れる鮮血を何度も拭うも、キリがない。唯はそれが無理ならと、ガーゼを何枚か重ねて、傷に当てた。端を白いテープで固定していく。
右肩と胸から腹にかけての斬り傷、刺し貫かれている右手にも、同じように手当てをした。
それが終わると、包帯を取り出して、上半身を覆った。最後に右手を包帯で覆うと、伊織は泣きそうになりながら、唯を抱きしめた。
「ありがとう」
伊織はうなずくと身体を離し、唯を支えながら、部屋のベッドまで連れていった。
横になったのを確認して、玄関に置いてきたものを片づけ、ベッドのところへ戻った。
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