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「なにがあったんです?」
伊織はベッドの近くに座って、左手を握りながら尋ねた。
「対象者は、オレの過去を、罪を、知る者だった」
「え……?」
伊織は聞き返すことしかできなかった。
「オレはな……人のフリをした、龍神なんだ」
「龍神……?」
伊織は首をかしげた。
「水と雷を司るとされている者。オレは二代目の龍神として、ある山奥にある隠れ里にいた」
「……」
伊織はなにも言わない。
「まだ、初代が生きていたころ、言ったんだ。オレには先代をも超える力が宿っていると。ほかに、龍神に仕える一族がいた。今回の対象者は、ある出来事を境に消息を絶ったその一族の、生き残りだった」
唯は低い声で語った。
「ある出来事?」
「それはまたの機会に。オレは、そいつに恨まれていた。あの出来事がなければ、すべてを失わずにすんだ。そう、言われた」
唯は左手で仮面を外し、目の色を銀に戻した。
「そうだったんですね。ずっと気になっていたんです。人間ではないのなら、いったいなんなのだろう、と。教えてくれて、ありがとうございます。……僕はこれで」
手を離そうとした伊織だったが、それをさせまいと、唯が手を握った。
「ここに、いてくれ。抱きしめられはしないが」
「寂しいって、素直に言えないんですか?」
仕方ないと笑った伊織は、床に座ってベッドに寄りかかった。
「驚いたよな、悪い」
天井に視線を投げて、唯が言った。
「それは認めますが、嫌いになりませんからね? でも、話を聞いて、ひとつ納得しましたよ」
「納得?」
唯が聞き返した。
「恨みのこもった傷のように見えたので」
「伊織の目は、やはり、誤魔化せんな」
唯は苦笑した。
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