第一章 唯の正体

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第一章 唯の正体

 歩くこと十五分ぐらいの一軒家の前で、唯の足が止まった。 「とりあえず、入って着替えてしまおう」  ドアを開けて、中に入った。 「……お邪魔します」  伊織は中に入ると、思わず立ち止まってしまった。  それなりに広い玄関だったからだ。物が少なくて、殺風景といえるかもしれないが。 「いつまで突っ立っている? 早くこいよ」  ドアから顔を出した唯が声をかけてきた。 「は、はい!」  伊織は慌ててスニーカーを脱いで、踵を揃えた。  トコトコと近くまで歩いていった。 「この部屋しか使っていないんだよ」  唯が呟きながら、身体を退けた。  そこには広い部屋があった。  リビングと寝室を兼ねているらしく、入ってすぐの真ん中に大きめの四角いテーブルと椅子が二脚。その右奥にはベッドが置かれていた。反対側にはクローゼットがあった。  別の部屋へ続くドアが三つもあって、伊織は内心で驚いていた。 「帰ったし、もう外すか」  唯はそう言うと、ベネチアンマスクを外した。  ちらりとしか見ていないが、伊織は思わず見惚れてしまった。 「ここ以外なら、どの部屋でも空いている。着替え、持っているか?」  その言葉に伊織がうなずいた。 「なら、ここで着替えて、濡れたものを持ってくるといい。洗って干してしまおう。ちゃんと別にして洗うから、気にするな」  唯は案内するとさっさとドアを閉めてしまった。 「……」  通された部屋は和室で、奥に布団が畳んで置いてあるのを確認しつつ、リュックを下ろして着替えを取り出した。白のTシャツと、チェック柄の青のシャツ、それから、グレーのジーンズ。  濡れたそれらはすべて脱いで、新しいものに換えた。
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