7人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
第一章 唯の正体
歩くこと十五分ぐらいの一軒家の前で、唯の足が止まった。
「とりあえず、入って着替えてしまおう」
ドアを開けて、中に入った。
「……お邪魔します」
伊織は中に入ると、思わず立ち止まってしまった。
それなりに広い玄関だったからだ。物が少なくて、殺風景といえるかもしれないが。
「いつまで突っ立っている? 早くこいよ」
ドアから顔を出した唯が声をかけてきた。
「は、はい!」
伊織は慌ててスニーカーを脱いで、踵を揃えた。
トコトコと近くまで歩いていった。
「この部屋しか使っていないんだよ」
唯が呟きながら、身体を退けた。
そこには広い部屋があった。
リビングと寝室を兼ねているらしく、入ってすぐの真ん中に大きめの四角いテーブルと椅子が二脚。その右奥にはベッドが置かれていた。反対側にはクローゼットがあった。
別の部屋へ続くドアが三つもあって、伊織は内心で驚いていた。
「帰ったし、もう外すか」
唯はそう言うと、ベネチアンマスクを外した。
ちらりとしか見ていないが、伊織は思わず見惚れてしまった。
「ここ以外なら、どの部屋でも空いている。着替え、持っているか?」
その言葉に伊織がうなずいた。
「なら、ここで着替えて、濡れたものを持ってくるといい。洗って干してしまおう。ちゃんと別にして洗うから、気にするな」
唯は案内するとさっさとドアを閉めてしまった。
「……」
通された部屋は和室で、奥に布団が畳んで置いてあるのを確認しつつ、リュックを下ろして着替えを取り出した。白のTシャツと、チェック柄の青のシャツ、それから、グレーのジーンズ。
濡れたそれらはすべて脱いで、新しいものに換えた。
最初のコメントを投稿しよう!