第一章 唯の正体

2/3

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
 リュックを背負い、着替えをすべて抱え込むと、ドアをノックした。 「終わったのか。これで全部だな?」 「はい。ありがとうございます」  伊織は小さな声で言った。 「ちょっと待っていろ」  首をかしげた伊織が待っていると、唯が真っ白なタオルを渡してきた。  ぺこりと頭を下げると、伊織はタオルでガシガシと髪を拭き始めた。 「珈琲(コーヒー)、飲めるか?」 「はい。ブラックの方がいいです」 「ん、分かった」  唯は言いながら、別の部屋へ続くドアを開けてどこかへいってしまった。  部屋の隅で髪を拭いていると、白いお盆に二つのマグカップをのせた唯が姿を見せた。お盆を片手で持っていたので、よく零さないなと、伊織は思っていた。 「少しは、身体を温めた方がいい」  唯はテーブルに熱々のマグカップを置きながら言った。 「なにからなにまで、すみません」  洗濯機の回る音を聞いた伊織がリュックを置いた。 「いい、いい」  唯は椅子に座った。  首許のワイシャツのボタンを二つほど開けていて、そこから白い肌が(のぞ)く。スラックス姿で、靴下も含め、すべて黒だった。右手の中指には黒の指輪をしている。同性でも惹かれてしまいそうになるほど、美しく整った顔立ちをしていた。  伊織はタオルを首に引っかけて、椅子に座った。  髪が乾いてきたのか、少し潰れてはいるが、大体いつも通りの髪型になった。茶髪でウルフカット。二十八であるのに、少し幼い顔立ちをしているからか、二十代前半だと間違われる。 「聞きたいことがいくつもある、という顔をしているが?」  唯はちらりと顔を見つめてふっと笑った。 「その通りなので。どうして僕を助けてくれたんです? それに目の色、銀に変わっていますよね?」 「ひとつずつ答える。巻き込まれただけなのに、命を奪うなんて、やりすぎだ」  唯は苦笑しながら言った。 「た、確かに」 「お前はあのとき、言ったよな? 見聞きしたことは誰にも言わない、と。秘密を守れるか?」  唯は真剣な顔をして尋ねた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加