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リュックを背負い、着替えをすべて抱え込むと、ドアをノックした。
「終わったのか。これで全部だな?」
「はい。ありがとうございます」
伊織は小さな声で言った。
「ちょっと待っていろ」
首をかしげた伊織が待っていると、唯が真っ白なタオルを渡してきた。
ぺこりと頭を下げると、伊織はタオルでガシガシと髪を拭き始めた。
「珈琲、飲めるか?」
「はい。ブラックの方がいいです」
「ん、分かった」
唯は言いながら、別の部屋へ続くドアを開けてどこかへいってしまった。
部屋の隅で髪を拭いていると、白いお盆に二つのマグカップをのせた唯が姿を見せた。お盆を片手で持っていたので、よく零さないなと、伊織は思っていた。
「少しは、身体を温めた方がいい」
唯はテーブルに熱々のマグカップを置きながら言った。
「なにからなにまで、すみません」
洗濯機の回る音を聞いた伊織がリュックを置いた。
「いい、いい」
唯は椅子に座った。
首許のワイシャツのボタンを二つほど開けていて、そこから白い肌が覗く。スラックス姿で、靴下も含め、すべて黒だった。右手の中指には黒の指輪をしている。同性でも惹かれてしまいそうになるほど、美しく整った顔立ちをしていた。
伊織はタオルを首に引っかけて、椅子に座った。
髪が乾いてきたのか、少し潰れてはいるが、大体いつも通りの髪型になった。茶髪でウルフカット。二十八であるのに、少し幼い顔立ちをしているからか、二十代前半だと間違われる。
「聞きたいことがいくつもある、という顔をしているが?」
唯はちらりと顔を見つめてふっと笑った。
「その通りなので。どうして僕を助けてくれたんです? それに目の色、銀に変わっていますよね?」
「ひとつずつ答える。巻き込まれただけなのに、命を奪うなんて、やりすぎだ」
唯は苦笑しながら言った。
「た、確かに」
「お前はあのとき、言ったよな? 見聞きしたことは誰にも言わない、と。秘密を守れるか?」
唯は真剣な顔をして尋ねた。
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