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「守ります。言うような相手もいませんので」
伊織も真っ直ぐに見つめ返した。
「……分かった。オレは、人間じゃない。だから、こんなふうに目の色を変えられる」
唯は言いながら、目を閉じて開けると、目が黒になっていた。再び目を閉じて開けると銀色に戻っていた。
「そうなんですね」
「驚いていると思うが、警戒していなさそうだな?」
マグカップを持ち上げて、珈琲を飲みながら、尋ねた。
「命を救ってもらったんですよ? 警戒してどうするんですか。驚いているのは認めますが」
伊織は珈琲を飲みながら、苦笑した。
「どうして、あの場所にいた?」
「通りかかっただけですよ。……居場所を、探していたんです」
「居場所ねぇ……」
ふうんと言いながら、唯は視線を伊織に投げた。
「誰にも邪魔されない場所が、欲しかったんです。僕にはお金がないから、ああやって街を彷徨うしかなかったんです」
「そうか。お前がよければ、だが。ここの空き部屋、好きに使っていいぞ」
「なんで、そこまでしてくれるんですか? 人間ではないことまで告げるなんて。賭けに近いでしょう?」
伊織は疑問を口にした。
「そう思うのが普通だよな。だが、お前はオレを軽蔑しない。少なくとも、オレが見てきた人間達とは違う。人間でないと分かるや、殺そうと襲い掛かってくる連中とは、な」
「……」
伊織は目を見開いたまま、固まってしまった。
「オレはそういう人間から、距離を取った。というか、逃げるしかなかった、の方が正しいな。詳しい話はまたの機会に。……それで、答えは出たか?」
その声で現実に引き戻された伊織はハッとした。
「はい。これから、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、唯がふっと笑った。
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