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第二章 新しい生活の始まり
珈琲を飲み終えると、唯がキッチン、風呂、脱衣所、トイレなどの案内をした。
「憶えるには時間がかかると思う。分からなければ、その都度聞いてくれ」
「はい!」
「お前の部屋、どこがいい?」
唯はそう尋ねた。
「和室のところがいいです」
「ああ、あそこか」
唯がスタスタと歩き出した。
伊織は足早に追い駆けた。
電気を点けた唯が、和室にあるものを確認していた。
「布団もあるし、押し入れの中には、なにもないはず……。悪いな。寝るところくらいしか、用意できなくて」
「外で寝るより遥かにマシですよ。大丈夫です」
その言葉に伊織は笑った。
「じゃ、また明日」
「はい、お休みなさい」
その言葉を聞いた唯は、和室を出ていった。
唯はベッドに寝転がりながら、思った。
――オレの裏稼業の話もしなければ。人間ではないことを明かしただけだしな。お互いに、分からないことだらけだ。
そんなことを考えながら、天井を睨みつけた。
翌日の九時ごろ、布団で眠っていた伊織が目を覚ました。身を起こして布団を畳むと、リュックに仕舞っていたグレーのジャージに着替えた。
唯がいる部屋のドアを開けて、そうっと入った。
トコトコとベッドの近くまで歩いていくと、眠っている唯を見た。
あらためて、部屋を見回した。ベッドの近くにあるサイドテーブルの端の方に、茎わかめと書かれた袋と、年季の入った灰皿が置いてあった。
「茎わかめ?」
呟きながら、伊織は首をかしげた。袋を手に取って、ひとつ取り出すと見つめた。
個包装になっていて、簡単に食べられそうだ。
こういうものなんだ、と思いながら、ジーッとそれを眺めた。
「食べればいいじゃないか」
低い声を聞いて、伊織はぎょっとした。
いつの間にか唯が起きていて、面白そうに眺めていたからだ。
「いただきます」
遠慮がちに言いながら、袋を開けて食べた。
「どうだ?」
「美味しい、です」
伊織は驚きながら言った。
「それはよかった。たくさん買ってあるから、好きなときに食べるといい」
「そんなにあるんですか」
伊織は驚いた。
「オレの仕事の話をしておく。座ってくれ。それと、煙草、喫ってもいいか?」
「構いませんよ」
唯はうなずくと、放っておいたコートのポケットから、煙草のケースを取り出した。
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