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第四章 妻の暴走
唯が訪れたのは、家から二十分ほどのところにある、誰も近寄らない大きく古びた屋敷。
ここには鍵などかかっていないので、依頼人が待っているかもしれないと思いつつ、いったん立ち止まって目の色を銀に変えながら、中に入った。
「合っていてよかったです。あなたが〝折り合い人〟ですか?」
一人の男が立っていた。
「ああ、そうだ。依頼内容は?」
唯は名乗らず、壁に寄りかかって、腕組みをしながら尋ねた。
「妻を、止めてほしいんです」
「お前自身でなんとかできない、というわけか?」
低い声に依頼人がうなずいた。
「離婚ですむわけでもないから、ここへきたんだな」
唯が溜息混じりに言うと、依頼人がうなずいた。
「毎日毎日、包丁片手に騒ぐ相手をどうしろって言うんですか。こちらも怪我をしているんです」
「妻の名前は?」
「緑恭子」
「金は? オレに依頼をするということは、もう引き返せなくなるんだぞ。お前も罪人になる。その罪を背負ってでも、生きる覚悟があるか?」
依頼人はその言葉を聞きながら、テーブルに金を置いた。
「あの女がいなくなるのなら、そうなっても構いません」
「……分かった。今夜決行する」
「分かりました」
依頼人はそう言うと、屋敷を出ていった。
唯は金を数えながら、アタッシュケースに詰め込むと、その場を後にした。
その帰り道、近くにある銀行に寄って、アタッシュケースに詰め込まれた金をすべて預けた。
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