第四章 妻の暴走

1/5
前へ
/28ページ
次へ

第四章 妻の暴走

 唯が訪れたのは、家から二十分ほどのところにある、誰も近寄らない大きく古びた屋敷。  ここには鍵などかかっていないので、依頼人が待っているかもしれないと思いつつ、いったん立ち止まって目の色を銀に変えながら、中に入った。 「合っていてよかったです。あなたが〝折り合い人〟ですか?」  一人の男が立っていた。 「ああ、そうだ。依頼内容は?」  唯は名乗らず、壁に寄りかかって、腕組みをしながら尋ねた。 「妻を、止めてほしいんです」 「お前自身でなんとかできない、というわけか?」  低い声に依頼人がうなずいた。 「離婚ですむわけでもないから、ここへきたんだな」  唯が溜息混じりに言うと、依頼人がうなずいた。 「毎日毎日、包丁片手に騒ぐ相手をどうしろって言うんですか。こちらも怪我をしているんです」 「妻の名前は?」 「(みどり)恭子(きょうこ)」 「金は? オレに依頼をするということは、もう引き返せなくなるんだぞ。お前も罪人(つみびと)になる。その罪を背負ってでも、生きる覚悟があるか?」  依頼人はその言葉を聞きながら、テーブルに金を置いた。 「あの女がいなくなるのなら、そうなっても構いません」 「……分かった。今夜決行する」 「分かりました」  依頼人はそう言うと、屋敷を出ていった。  唯は金を数えながら、アタッシュケースに詰め込むと、その場を後にした。  その帰り道、近くにある銀行に寄って、アタッシュケースに詰め込まれた金をすべて預けた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加