第四章 妻の暴走

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「帰ったぞ」 「思ったより早かったですね」 「まあな」  唯は目の色を銀に戻した。 「なにか、依頼あったんですか?」  唯はうなずくと、クローゼットを開けて、アタッシュケースを仕舞った。 「依頼人が百万円、渡してきた」 「百万ですって!?」  伊織は仰天した。 「口座に預けてきたが。オレはただ、依頼人の望むように動くだけさ」 「お金の多さは関係ないんですね。でも、とても暗い顔をしていますよ?」  伊織は唯の顔をじっと見つめて言った。 「そんな顔、していたか。……オレも、隠すのが下手だな」  唯は苦笑するしかない。 「表情でしか分からないので。あなたは、充分、なにかを隠しているでしょう?」  伊織は鋭いところを突いてきた。 「そうかもしれないな。じゃ、出かける。それと、救急箱なら、テーブルの下だ」 「救急箱? あの……!」  伊織は声をかけたが、唯はそれから逃れるように出ていってしまった。 「どうして、救急箱の場所を教えてくれたのでしょう……?」  伊織は言いながら、救急箱を取り出して、開けた。  中には大量の包帯とガーゼ、消毒液が乱雑に仕舞われていた。伊織の疑問はさらに深まった。  走ること十五分ほどで、目的の家に辿り着いた。  いったん目を閉じて開け、銀色の目でドアを睨みつけた。 「さて、仕事をするか」  唯は呟くと、ドアを蹴破った。 「なにしてんだい、あんたは! こんなことをして、ただですむと思うんじゃないよ!」  玄関のあちこちに傷が入っていた。女の身体を見ると、服がぼろぼろに裂かれていた。自傷をするタイプではなさそうだ。 「二度と、動けなくしてやるよ」 「ひっ! ……わたしがなにをしたって言うの!」  銀色の目を見た女は、腰を抜かしながら、声を出した。 「貴様は、自分をコントロールする術を学んでこなかったんだな。暴れても、誰かが止めてくれる、赦してくれる。……そんなふうに思っていたんじゃないのか?」 「今までずっと、そうだった! それはこれからも変わらない!」
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