赤の騎士

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赤の騎士

「ちょっと!? どういうこと? なんで私が学級新聞の係なの?」  廊下に水菜(みずな)の声が響き渡る。勉強、運動ともに学年トップ。おまけになかなか可愛い顔立ちときている。まあ、あのツインテールが似合っているのかは微妙だけど。  クラスの中ではリーダー格だし、実際先生が相手でも、ひるまず意見を述べるほどだ。水菜とは小学校に入った時から今日までずっと同じクラスだけど、性格は昔からちっとも変わらない。両親と弟の四人で街の中心にあるマンションに暮らしているらしいけど、ああいうお姉さんをもった弟って、どんな気持ちなんだろう?うーん……  そんな水菜がキンキン声を張り上げていたら、もちろん誰もうかつには近寄ろうとしない。 「……私も選ばれてる……」  水菜の隣に立ち、廊下に貼られた委員会メンバーの表を見ながらそうつぶやいたのは真子(まこ)。水菜より頭一個分背の高い彼女は、トレードマークの黒いロングヘアとともに学校ではかなりの有名人だ。  何せ真子の美少女ぶりときたら、実際に芸能事務所にスカウトされ、人気ドラマや映画にもいくつか出演したことがあるほどなのだ。もっとも今は学業専念ということで、芸能のお仕事は少し休んでいるらしい。  真子とは去年、五年生の時に初めて同じクラスになった。前に運動会で見たけど、お父さんもお母さんもごく普通の顔立ちだったのにはびっくりした。ちなみに運動会には、彼女のお兄さんも来ていたけど、こちらはかなりのイケメンで女子達がキャーキャー言ってたっけ。 「ま、しょうがないよな。学級新聞の係なんてこの国じゃ誰もやりたがらない。ちょうど委員を決める日に休んだ俺たちにまわされたってわけだ。運が悪かったと思って、あきらめるんだな」  もの知り顔で割り込んできたのはダイ。一年前に転校してきたばかりで、かなりのイケメン、スポーツ万能。しかも小学生のくせにウェーブのかかったロン毛といういでたちで、当初女子からの人気はかなり高かった。だが本人曰く「小学生なんてガキすぎてだめ。最低でも女子高生以上じゃないと」とのことで、今ではむしろ男子からの尊敬のほうが多い。  家族についてはあまり話したがらない。知っているのは、海外でも活躍するビジネスマンのお父さんとお母さんの三人家族らしいということだけ。 「この国じゃってどういう意味?」  ダイを見上げながら、僕はそう聞いた。 このメンバーのなかではおそらく一番平凡な容姿、平均的な小学生なのが僕。地元の会社で経理をしているお父さんと、スーパーでパートをしているお母さん、生意気な妹と四人で郊外の小さな一軒家に暮らしている。  僕は社交的なタイプじゃないし、クラスの中心メンバーでもない。基本的には趣味の合う数人の友達とだけ遊び、それ以外は普段クラスではおとなしくしていることが多い。  ただダイは誰に対しても平等に接するので、遠慮なく聞くことができる。 「あのな、和也(かずや)。アメリカのハイスクールあたりじゃ、授業でジャーナリズムを学んだりするんだ。そのために、それこそ新聞づくりをしたりさ。それにハイスクールの新聞部っていうのは、むこうじゃそれなりに人気のクラブ活動なんだぜ」  そういってダイはニカッと笑った。 「海のむこうじゃそうでも、ここは日本なのよ。塾だってあるのに、この上居残り必須の新聞づくりなんて、罰ゲームもいいとこよ」  そう突っかかってきたのは、水菜だった。  だがダイは臆することなく答える。 「これだから島国根性はだめなんだよ。もっとグローバルな視点をもてって」 「あんたこそ、カッコつけるのはやめなさいよ。そういうやつがいるから、この国からサービス残業がなくならないのよ」 「おいおい、水菜ちゃん。小学生の居残り課外授業とこの国のブラック企業体質を結びつけるなんて、誇大広告にもほどがあるぜ」  ダイと水菜の口ゲンカには、もはやみんな慣れっこになっている。  僕は二人の丁々発止のやり取りはほっとくことにして、真子のそばに立った。 「やっぱり居残りになるんだね」 「うん」 「芸能活動は当分休み?」 「うん」  決して無愛想ではないのだが、いつも無口で何を考えているかわからないというのが、僕の真子に対する評価だった。それでもドラマや映画で見せる彼女の演技に大人まで夢中だというのだから、ファンというのはつくづく変な人種だと思う。
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