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真子の真剣な様子にみんなも真顔で頷く。
「私のお兄ちゃん、今、中学生なんだけど、最近おかしなことがあって……」
真子のお兄さんが、真子を可愛がっているのは有名な話だ。真子はお兄さんから、真子っちとあだ名で呼ばれているらしい。そのせいか、話したことはないけど赤の他人という感じはあまりしない。
「お兄ちゃんのクラスでひどいイジメがあるって、市の教育委員会に匿名の手紙があったの。それも何度も何度も。だけど学校がいくら調べても、イジメなんて起きてないんだって。これってどういうことだと思う?」
「それ、ちゃんと調査してるのかしら?学校としては、見つからないほうがいいわけでしょ。それに今どきの子って、大人に隠れてそういうことするの、上手だから」
さっそく水菜が意見を述べた。
口には出さないが、僕も、それからダイも似たような意見だろう。
「ううん。それがお兄ちゃんもはっきり言ってたの。クラスでイジメはないって」
「でも真子のお兄さんだって、すべてを分かってるわけじゃないでしょ? イジメがあったのに、何かの理由で言えないだけかもしれないし」
「……」
黙りこんでしまった真子を見て、水菜が慌てて手を握る。
「別に真子やお兄さんの人間性を疑ってるわけじゃないから、ね? そこは信じて」
真子がおずおずと頷き、水菜もニッコリと笑い返す。
なんか女子の関係って面倒だな。見れば、ダイもいささか呆れた顔をしている。
「でもさー、イジメがないなら、何でそんな手紙を送ったんだろ?」
「嫌がらせかもな? 学校に対する。そんな手紙が何通も送られてきたとなれば、学校の評判は落ちるだろ? ただ調査するのだって手間がかかるし」
「ありえるわね。校長なんかとくにイメージダウンになるから、今後教育委員会で出世したいなんて考えてたとしたら、かなりの痛手よね」
なるほど、そういうものか。
……でも何か気になるな。嫌がらせにしては、何だか面倒なやり方の気がするけど。
「ねえ、真子。その手紙を送った生徒が誰かは、わからないの?」
「うん。手紙は全部パソコンでプリントアウトされたものだし、ただ学区内から郵送されたものとしか分からなかったって」
「ふーん」
こういう時は連想ゲーム方式だ。
手紙……イジメ……告発……嫌がらせ……教育委員会……
うーん、ダメだな。イマイチ。視点を変えよう。
匿名……通報……真子のお兄さん……アイドル……メディア……
あ、でもマスコミに嗅ぎつけられたわけじゃないか。
事実無根……悪評……嘘……評判……あれ?ひょっとして……
「……オオカミ少年?」
「え?」
「え?」
「は?」
「つまりさ、今はイジメはないけど、これから起こるんじゃないの?」
間髪を入れず、ダイが身を乗り出した。
「そういうことか! これだけ調べてもイジメはなかったんだ。もしこれから本当にイジメが起きて、被害者が訴えても、そこまで本気で対処したりはしないだろうってことだな。そうすりゃ、加害者側は思う存分イジメられるって訳だ」
「うん。もともと学校側としては、イジメなんかがあったと分かったら困るんだしさ。もし追及されても前にイジメの訴えがあったけど実際にはなかったので、今回も嘘だと判断しましたって言うだろうね」
「でも和也君、匿名の手紙ならともかく、実際に被害者が名乗り出てきたんなら無視はできないんじゃない?」
おっと。さすがは水菜。
「たぶん名乗りでるのは難しいんじゃないかな?だってそんなことしたら、今まであの嘘の手紙を散々送りつけてきたのはお前か⁉って、逆にあらぬ疑いをかけられそうだもの」
ダイがパチンと指を鳴らした。
「やるな。和也。見事な名推理だ」
「うん。私も関心しちゃった」
ダイと水菜に褒められ、さすがに悪い気はしない。さて、問題は事件の依頼人である人気アイドル様だけど……
「……私、今の推理聞いて思ったことがあるの。イジメの被害者にされそうだったのは、お兄ちゃんだったんじゃないかって……」
「……」
「私がこんな仕事してるから、お兄ちゃん、時々からかわれたりしてるみたいなんだよね。だから心配で……」
水菜が真子の顔を覗き込んで言った。
「真子、まずは今和也君の話した推理をご両親に聞かせて。それからどう対処すればいいか、先生に相談してもらって」
水菜のアドバイスに、真子も力強く頷き返す。
「今の事件、問題編と解決編で二回に渡って掲載したらおもしろいかもな」
「うん、そうだね。でもそれだけじゃ足りないから」
他に簡単な時事ネタと算数のコツも載せよう、そう言おうとした時、突然真子が割って入ってきた。
「でも知らなかった。和也君が私のファンだったなんて」
「あら?」
「そうなのか?」
え?ちょっと。何でそうなるの。
「だから、あんなにがんばって推理してくれたんだよね? 正直、和也君があんなにも名探偵だったなんて、びっくりしてる」
「え~、じゃあ、和也君、真子の写真集やブロマイドも持ってるんだ」
水菜がニヤニヤしながら茶化してくる。
「違うよっ。僕が好きなのはミス」
テリー小説と言い終える前に、今度はダイが割り込んできた。
「水菜が好き!? お前、どんな趣味してるんだよ!?」
「何ですって!? あんたに趣味がどうこう言われたくないわよ! この年増好きが!」
またケンカのはじまった二人を尻目に、真子が何とも愛くるしい微笑みを投げかけてくる。
あ~、真子のファンに知られたら、それこそ殺されちゃいそうだ。
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