再出発

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再出発

 冷たい風の吹く1月。  川崎由依は、駅前のカフェで親友の相田桃子とランチに来ていた。 「突然、呼び出してごめんね」  由依は、少し申し訳無さそうに桃子に伝えた。 「私も連絡しようと思ってたよ〜!」 と、会えたことに喜び、笑顔で答える桃子。 「あのね…、」 と、言いづらそうに切り出し、 「あのね…、私、離婚したの…」 と由依が言葉にした途端、桃子は驚き立ちあがり、 「はぁ〜!?」 と声を荒らげた。  由依は、慌てた様子で周りを見回しながら、桃子の腕を引っ張り、 「ちょ、ちょっと落ち着いて」 と、桃子を席に座らせた。 「ごめん、ごめん」 と謝りながらも、 「で、なんでよ?」 と、問いただす桃子。 「何回も浮気してたのは我慢してたけど、暴力的な方も出てきて、もう無理かな…って」 と、言葉を選びながら伝える由依。 「…大丈夫?」 心配そうに由依の顔を覗き込む桃子に、 「大丈夫! 別れたら楽になったよ!」 と、笑顔を見せる由依。  そして、また言いづらそうな顔に戻りながら、 「それでね、今日誘った理由がね…、 住んでたアパート出なきゃいけなくなって…。 裕太…あっ、息子ね、 息子の裕太と二人で暮らす事になるから、転校させたくなくて…。 桃子のマンションの所だと、小学校を転校しなくていいんだよね。だから、近くで良いアパートあるか知らないかな?と思って…」 と、由依は桃子に話した。  桃子は、由依の話に黙って耳を傾けていたが、話を聞き終わった途端、 「ちょっと電話してきて良い?」 と、由依に断りを入れて、外へ電話をしに出ていった。  その後ろ姿を見つめ、 「心当たり…あるのかな…?」 と由依は思い、少し冷めたコーヒーを飲みながら、桃子が戻ってくるのを待っていた。  10分ほど経った頃、表情を明るくした桃子が戻ってきた。 「いい所あったよ〜!」 と言って、席に着く桃子。 「えっ、ホントに?」 と、素直に嬉しくて声が高くなった由依。  でも、少し考えて、 「あっ、でも、駅近だし…、月々のお金って、高いよね…?」 と、由依は言いづらそうにしながら桃子に聞いた。  そんな由依に、にこやかな表情で、 「場所は…、うちのマンション! 月々は光熱費のみ!」  どうだ!とばかりに、得意げな顔をして桃子は言った。  それを聞いて、由依は喜ぶというより眉をひそめて、 「…えっ? 桃子の所って、賃貸じゃないよね?」 と問いかけると、今度は桃子が言いづらそうに、 「実は…、 旦那が海外勤務になっちゃって…。 マンションを貸すか売るか旦那と話してた所だったの。 今日も引っ越すこと伝えようと思ってて…」 と由依に伝えた。  由依は、驚きながら、そして少し寂しそうに、 「そっかぁ…」 とだけ口にして肩を落とした。  そんな由依に、 「私も少し前に聞いたばかりでさ…。 近くにいてあげられなくてごめんね。 いつでも会いに行ける距離じゃないけど、連絡もするし、会いに来るからね。」 と、桃子は申し訳無さそうに伝えた。  そんな桃子の顔を見て、由依は一生懸命笑顔を作り、 「私は大丈夫! 桃子だって、慣れない土地不安だよね? お互い頑張ろう! マンション、桃子の所なら安心だから、お言葉に甘えていい?」 と桃子に伝えた。  それから2時間ほど、これから訪れる寂しさをかき消すように、他愛もない話をして二人の時間は過ぎていった。  桜の蕾が色づき始めた3月、桃子の住んでいたマンションでは、由依と息子の裕太が引っ越しの片付けに追われていた。
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