1人が本棚に入れています
本棚に追加
クリスマスの対峙
不穏な雰囲気の玄関に、
「ゆうたぁ!!!」
と、声を張り上げながら、由依が飛び込んできて、裕太を抱きしめた。
裕太は、
「えっ? 母ちゃん…?」
と、驚きながら、泣き止まない由依に戸惑っていた。
そこに、翔が現れた。
裕二は、
「お前、何しに来た!」
と、詰め寄るが、それを交わして由依と裕太のそばへと歩み寄った。
翔の姿を見た裕太は、ひどく動揺した。
さっきまで無表情だったのに、翔を見ただけで泣きそうになっていた。
由依が落ち着くのを、皆黙って見守っていた。
そして、少し由依が落ち着いた頃、翔が、
「裕太と話していいかな?」
と、問いかけた。
それに由依が頷き、そっと裕太の隣に動いた。
翔は、裕太の前にしゃがみ込み、裕太の顔を見つめ、囁いた。
「俺、お前と約束してたんだけどな」と。
その言葉を聞いた裕太は泣き出した。
「ごめんなさい…。 ごめんなさい…」
ただただ謝り続けた。
そんな裕太を翔は抱きしめた。
そして、優しく声をかけた。
「何かあったのか? それとも、俺がお前を傷つけたのか?」
と…。
その言葉を聞いた裕太は、慌てて答えた。
「違うの! 翔くん、なんにも悪くないの! 僕ね、僕…、翔くんと母ちゃんにもっと仲良しになって欲しくて…。 ふうちゃんがね、二人がもっと仲良しになったら、夕飯一緒に食べてくれるって言っててね、それでね、ふうちゃんにどうしたらいいか聞いたらね、翔はヘタレだから、お前に任せたって言っててね…」
と、早口になってしまいながらも、涙目で翔を見つめながら、一生懸命に伝えた。
翔はしゃがんだまま、頭を抱えた。
「…ヘタレって…、風馬のヤツ!! …でも、俺が悪いのか?」
と、色んな感情が、翔の頭の中を駆け巡っていた。
そんな翔を気にしながらも、裕太はさらに言葉を続けた。
「それとね、パパがね、母ちゃんが幸せになるには、僕は居ないほうがイイって…だから…」
と言うと、裕太は下を向いて涙を拭きながら黙り込んでしまった。
玄関に沈黙の時間が流れた。
翔と由依にもっと仲良くなって欲しい。
そして、由依の幸せには裕太がいない方がいい。
だったら、クリスマスに二人きりにしてあげたら、二人へのプレゼントになるのかな?
と、裕太は考えたのだ。
翔は、少し考えて、
「俺さぁ、今日な、お前が喜ぶと思って、朝からメチャメチャ準備したんだぞ。 お前だけのためにな」
と、裕太の顔を見ながら話しだした。
「いつもさ、お前が寝た後、どれだけお前の赤ちゃんの頃の写真眺めてると思ってんだ? 俺さ…、お前がめちゃくちゃ大事なんだよ。 分かるか???」
と裕太に問うと、裕太は泣きながらも頷いた。その横で、由依も下を向き、ハンカチを口に当てたまま泣いていた。
翔はまだなおしゃがみ込んだままの姿勢で、由依と裕太の泣いている顔を交互に見つめながら、
「由依さんの事も大事だよ。 だから、ゆっくり3人で家族になっていかないか?」
その言葉に、裕太は何度も頷き、由依も大きく頷いた。
翔は立ち上がり、由依の頭を軽く撫で、それから裕太を優しく抱きしめた。
裕太は、
「翔くん、大好きだよ。 僕の父ちゃんは翔だけだ。 …パパなんて、大嫌いだ。」
と、玄関隅にいる裕二を睨みつけた。
そんな裕太を見て、翔は、
「嫌いなのは仕方ないかもな…。 でもな、俺はあの人に感謝してるんだ。お前に出会わせてくれたから」
と、優しい眼差しで裕太を見つめた。
翔のその言葉に少し考えた裕太は、裕二に向かって、
「母ちゃんを泣かしたから大嫌い! でも、翔くんと出会わせてくれて、ありがとう…」
と言い、裕二の方を見たくない裕太は、顔を翔の胸に埋めた。
そんな裕太の姿を見て、裕二は肩を落として黙って去っていった。
翔は、一部始終を静かに見守っていた祖父母に一礼し、
「クリスマスにお騒がせして、すみませんでした」
とお詫びし、
「クリスマス会をマンションで用意しているので、裕太と由依さんを連れ帰っても良いですか?」
と尋ねた。
そして、その返事を待たずに、
「もし、よろしければ、一緒にクリスマス会をしていただけませんか?」
と、祖父母にも声をかけた。
二人は驚きながらも、互いを見やり、翔をみて頷いた。
それを見て、翔は微笑み、由依と裕太を抱きしめた。
最初のコメントを投稿しよう!