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翔と由依
302号室のチャイムが鳴り、翔は、モニターを覗いた。
由依の姿を捉えた翔は、一言声をかけ玄関に向かった。
翔は、心当たりがなかった。
裕太とは先程まで会っていたが、母親が俺の家に来るとは言っていなかったし、由依とは、最初にトイレを裕太に貸した日の迎えの時から会っていなかった。
「どうかしましたか?」
少し優しい口調を意識しながら、由依に問いかけた。
由依は言葉を選び、悩んだ。
どうかしたのではない。
どう聞けば良いのか考えがまとまらないのに、チャイムを押してしまった。
言葉を選びながら、由依は、
「あの…、公園で遊んでもらったようで…」
と、翔に伝えた。
「あっ、すみません! 勝手に外に連れ出してしまって…。 ゲームばかりだから、たまには外遊びもいいかなと」
と、少し早口に言い訳をするかのように、翔は、由依の問いかけに答えていた。
その様子を見て、迷惑はかけてないかも…と、少しホッとした由依は、
「子守をさせてしまったようで…、すみません」
と、頭を下げた。
そんな由依を見て、慌てて翔は、
「全然です! 俺も楽しいですから。 それに、昼の弁当、ちょっともらったりしてイイ思いもしてますし」
と、良かれと思い口にした言葉だったが、
「しまった! 余計なこと言った!」
と、頭で思い、翔は、気まずい顔をして口を手で押さえた。
「…食べて…、すみません」
と、今度は、翔が肩を落として謝った。
そんな翔の慌てる姿が少し可笑しくて、
「お口に合ったなら良かったです!」
と、由依は笑みを浮かべながら伝えた。
そして、由依は、
「良かったら、夕飯、家でいかがですか?」
と、無意識に口にしていた。
桃子からこの隣人の事は聞いていた。
桃子の旦那さんと同じ会社の仕事人間。
冷静沈着人嫌いのロボットと影で言われているような人だと。
人に興味ないから、私達親子の事も気にしないだろうと…。
そんな人がなぜ裕太と?
今目の前にいる人は、ロボットにはとても見えない。…温かい人に見える。
なによりも…『裕太が、私に内緒にしてまで会いたいこの人をもっと知りたい…』そう思ってしまった。
そんな気持ちの変化に戸惑っている間に、
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
と、翔も答えていた。
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