初めての夕食

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初めての夕食

翔も気になっていた。 裕太がどんな生活をしてるのか。 どんな親の元育てば、こんな興味深い面白い子供が育つのか…。 そして、裕太がすごく大事で守りたいといつも言っている母親由依の事も気になっていた。 別れたあとの玄関ドアが閉まった両側で、由依も翔も共に、少しだけ近付いたように思えた距離に、温かい気持ちを感じていた。 由依が、家の玄関ドアを開けると、そこには泣きそうな顔で立ち尽くす裕太の姿があった。 「翔くんは悪くないの。僕が黙ってたの。僕がいけないの。」 と、一生懸命伝える息子に心が痛み、 「母ちゃんもね、お隣さんと仲良しになれたらな~と思って、話してきたんだよ」 と、優しく声をかけた。 「それにね…」 と、言葉を溜め込む由依。 裕太が、由依の顔を覗いた。 そんな裕太の顔を見つめながら、 「今日の夕飯、お隣さんがうちに来てくれるって!」 と伝えると、裕太は、みるみるうちに表情が明るくなり、 「ホントに? ホントに? 夜も一緒に食べれるの? やったぁ!!!」 とはしゃぎ、ソファに飛び込んで足をバタバタさせながら喜んだ。 それを見て、由依は嬉しさがこみ上げたが、 「あっ、夕飯…、何作ろ…?」 と、自分に問いかけ、時計を見て、急いで準備に取り掛かった。 翔と由依がぎこちない雰囲気の中、始まった夕食。 裕太がはしゃぎ騒ぐ空気のおかげで、食べ終わる頃には目があっても微笑み合える二人になっていた。 夕飯の後、トイレから戻った翔は、はしゃぎ疲れてソファで眠る裕太が目に入った。 周りを見渡し由依を探すと、洗い物をしていた。 まだ呼んだことの無い名前。 翔は、少しためらいながらも、 「由依さん」 と声をかけた。 突然名前を呼ばれた由依は、平静を保ちながら振り返り、 「はい?」 と答えた。 そんな由依に目をやりながら、 「裕太、寝ちゃいました。 部屋に運びますよ。 どこですか?」 と問いながら、翔は裕太を抱きかかえた。 それを見て、慌てて由依は、 「えっ!あっ! すみません!」 と言いながら、蛇口をひねり手を拭き、翔の方へと急いだ。 裕太の部屋の中。 裕太をベッドへ下ろした翔は、その傍らに腰を下ろし、裕太の寝顔を見つめていた。 そんな翔の姿を、由依は黙って眺めていた。 「裕太…、面白いやつですね。」 と、翔は呟いた。 続けて…、 「俺、子供好きじゃないんです。だけど…、なんでだろう…。裕太は、ホントに一緒にいると楽しくて…」 と、言葉にして振り返り、由依を見つめ、 「子供相手に、怪しいやつだと心配になりましたよね?」 と言い、 「でっかい友達が裕太に出来たとでも思ってもらえませんか?」 と真剣な眼差しで由依に問いかけた。 そんな翔の真剣な眼差しから、心から裕太を大切に思ってくれていると感じた由依は、彼を信じようと思い、微笑み頷いた。 その顔を見て、翔も安心した顔になった。 それから翔は、自分と居るときの裕太の話を由依に話した。 その時間は、二人をさらに近づける時間にもなっていた。 …その日を境に、土曜日の夜は3人で過ごす時が増えていた。 そんなある夜、裕太が寝たあとの川崎家では、ダイニングテーブルでアルバムの中の1枚の写真をじっと見つめる翔の姿があった。 裕太の生まれたときの写真だった。 優しい眼差しで見つめ続ける翔のそばに、由依はそっとコーヒーを置いた。 「…なんかさ、ずっと見続けてたらさ…、この写真、俺が撮ったのか?って錯覚しちゃいそうだよ」 と、由依に話しかける翔。 そんな翔に、 「裕太の小さい頃の話、何回も同じ事話してるようで…飽きませんか?」 と、由依は気になっていた事を聞いた。 翔は、笑いながら、 「何度も話させちゃってごめん!ごめん! でも、不思議と飽きないんだよなぁ〜。」 と呟いた。 土曜日の夜…裕太が寝たあとで、由依と翔は、こんな風に裕太の話をすることが日常になっていた。
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