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「おめでとう」
私は年に一度だけ買う純白のバースディケーキの前に正座する。
灯を消した部屋の中、苺の間に立てたカラフルな蝋燭の炎がゆらゆらと、風も無いのに揺れています。
それはきっと私のせい。貴方の誕生日を祝う二人の姿を想い浮かべたからでしょう。
また今年も貴方の代わりに私は炎を吹き消します。
「おめでとう」
貴方の歳を表した美しい炎が、今年も所狭しと燃えています。
一人で食べるには多すぎますが、そろそろ来年からは5号サイズに変えましょう。
貴方は私の存在などすっかり忘れてしまったでしょうね。
誕生日おめでとう。
どうか、元気で長生きしてね。
「おめでとう」
4号のホールケーキの中心に一本、白い蝋燭が煌々と燃えています。暗闇の中にぼんやり浮かぶ赤い苺が初めて美味しそうに見えました。
今日、貴方が既に亡くなっていた事を知りました。
これで私は拘り続けた妻としての立場ではなく、ようやく一人の人間として生きていく事が出来そうです。
私は自分の為に蝋燭を吹き消します。
おめでとう
と、貴方はきっと天国で、どうせ嫌味な台詞を吐くのでしょう。
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