3.誰も知らない、私以外は

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「羽奏……!?」 「とうま……くん……?」 目が覚めると 彼が私の顔を覗き込んでいた。 心配しているというのが ありありと伝わってくる顔だった。 「どうして……私……」 最後の記憶は 刀馬くんの家のトイレ。 その後は……。 「羽奏……ちゃん……?」 刀馬くんの後ろから 刀馬くんの母親が 現れた。 子供を心配する 親の顔というのは こういう顔なのだろうかと 何となく思った。 「羽奏ちゃんあなた……」 彼の母親は 私の手をぎゅっと握ってきた。 「妊娠、してるんですって」 「にんしん……」 私は一瞬 この人は何を言っているのだろうと 思ったが すぐに気がついた。 知られてしまった。 この人たちに。 私の子のことを。 どうしよう。 「あ……あの……」 どうしよう。 どうしよう。 殺せって言われる? 怒られる? どうしよう。 どうしよう。 どうすればいい? 今、私がこの子を守るために。 その時、優しい花の香りと一緒に 柔らかい腕に抱きしめられた。 「ありがとう、羽奏ちゃん」 「……え?」 「私の夢を、あなたが叶えてくれるのね」 彼の母親が、泣きながら 私を抱きしめてくれた。 私の顔が 彼の母親の肩に 乗っかった状態になる。 彼の顔が 灯りの下で はっきりと見えた。 ねえ、刀馬くん。 教えて。 あなたの 苦しそうな顔は 何を意味しているの? この女の人は どうして泣いてくれてるの? 私はこれから どうすればいいの?
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