3.誰も知らない、私以外は

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「羽奏、起きてる?」 刀馬くんの母親が 出て行ってから どれくらい経ったのか いつの間にか 制服姿の彼が 家に帰っていた。 窓の外は もう真っ暗だった。 電気はつけっぱなしだったので 私は全く気づかなかった。 「おかえりなさい」 「ただいま」 彼は、私が横にさせられている ベッド脇にあるサイドチェアーに 座ってから 汗でベタベタになったはずの 私の頭を丁寧に 撫でてくれる。 少し骨張った彼の手が やっぱり好きだと 思った。 まるで新婚さんのような やりとりだ。 ちょっと前の私だったら 恥ずかしくても 嬉しさの方が勝ったかもしれない。 でも、今は違う。 「体調はどう?」 「うん……大丈夫だよ……」 「つわりって、大変なんだな。俺、知らなかったよ」 「……そうだね」 こんなこと。 私たちは 知るべきじゃなかった。 「あのさ、羽奏……少し話、できる?」 彼の目に、不安が見える。 私が別れたいと言った あの日の続きを 彼はしたいのだろう。 「うん」 どうしよう。 妊娠のことがバレた今 本当のことを話すべきなのだろうか。
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