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歩きながらでも、朝水の足取りが軽くなったのが分かる。
いつしか私の前を歩いていた朝水は、通学路を外れると、その軽い足取りで近くの公園に入っていった。
「あかり、もしかして元気ないの?」
人気の少ない夕暮れの公園で、朝水が私を振り返った。
「そ、そんなことないよ?」
「うそ。私には分かるよ」
とぼける私の頬に、朝水が触れた。
---私の気も知らないで…。
「そう見える?じゃあさ、言わせてもらうけど、さっきから私には朝水が嬉しそうに見えるんですけど?」
言っちゃった。
これ、すっごいイヤミっぽくない?
言ってから“しまった”と思ったけど、もう遅い。
そう思って朝水の反撃を覚悟していたけど、当の朝水は今にも吹き出しそうなのを必死で堪えていた。
「な、なに?感じ悪いんですけど?」
「あかり、ごめんね。私嬉しすぎて、我慢できなくなったの。
だって、あかりが誰のものにもならないでいてくれたんだから」
「へっ?」
「もう。皆まで言わす?
だから、あのね?私、あかりのことが…」
「ねえ、ちょっと待って。それって…」
「そういうこと。嬉しくて頑張って勇気を出してみたんだけど、迷惑だった?
あかりがもし迷惑だったら、私が今言ったこと、全部忘れてください」
朝水は恥ずかしそうに俯いた。
「いや、迷惑じゃない!迷惑じゃないけど、朝水は濱口くんのことが好きだったんじゃないの?」
「ああ、それ?カモフラージュ。
あの時は空気を読んで、みんなと同じように濱口くんの名前を出しただけ」
「なんだ、私と同じじゃん」
私と朝水は、顔を見合わせて笑った。
そして、改めてハグ。
今までも何度もふざけたフリをしながら、気持ちを隠してハグしたことはあったけど、初めてお互い正直な気持ちでハグをした。
そしてハグを解いて再び見つめ合う。
「濱口くんに悪いことしたねー」
「したねー」
「でも結果的には、濱口くんに感謝だねー」
「だねー」
私と朝水は、顔を見合わせて笑った。
「あ、コンビニ寄って帰ろ?」
「いいね。肉まん食べたい」
「あ、じゃ私はピザまん!」
「半分こしよっか」
昨日までと変わらない帰り道だけど、昨日までと一つだけ変わったことがあることが、なんだかとってもくすぐったい…。
そんな帰り道だった。
おしまい
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