あー、あの日の わいの冒険 1年生 その12 「思い出トレイン」

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 だって、ピロピロ笛やで。  あの状況やで。吹かなあかんやろ。お約束的には……  まあ、そんなこんなで怒られながらも何とか自分の机と棚を片付けて水拭きを済ませた。 「ふぅー。疲れた」  と、わいが一休みしていると。 「なっちゃーん」  と母ちゃんがまた入って来た。 「なっちゃん。コレ、今度来た時、しんちゃんにあげたら」  そう言って母ちゃんが持って来たのは段ボールに入ったプラレールだった。  しんちゃんは2つ下の従兄弟の男の子。本名、山口(やまぐち)真治(しんじ)でしんちゃん。お正月とかお盆によく家に来て一緒に遊ぶんやけど、最後は必ず調子に乗って一緒に怒られる。まあ、ちょっとした暴れん坊や。 「ええー」 「だって、あんた最近プラレールで遊ばへんやん」 「そやけど……」  わいは、母ちゃんから段ボールを受け取って、ガチャガチャと中身をまぜ返してみた。 「押し入れ、はいらんのよ。整理したいの。ちょっと考えてみて」 「……うん」  レールを一本取って置いてみた。もう一本取って繋げてみる。そうやって、どんどんどんどん繋げていきながら、色んな事を考えていた。  確かに、仮面ライダーとウルトラマンを集めるようになってからは、全然遊ばんようになったなー。最近はマリオやし。保育園の頃はあんなに遊んでたのに、不思議やなー。何でやろ。 ……まあ、今でも、好きやけどな。  昨年はお盆にしんちゃんが遊びに来た時、プラレール1回しか出さんかったな。でも、その時はしんちゃん大フィーバーして、一緒に作ったけな。もっとあっちまで行こうって言って、洗面所超えて風呂場まで繋げて走らせて、坂道の土台に化粧品やらじっちゃんの書道道具やら使ったら、母ちゃんに二人で怒られたんや。勝手にやったのしんちゃんやのに。……でも、楽しそうやったなー。  もともと、このプラレールの大半は近所のお兄ちゃんからのもらいもんや。わいが保育園、それもまだ小さい頃に、電車が好きなん言ったら、「もう使わへんから」って言ってくれたんや。わい、嬉しくて、「ウヒョー」って言ったん覚えてるわ。それから、しばらくはずっと電車にハマってて。 「あ、コレ」  わいは、レールの奥から青いブルートレインの車両を取り出した。 「昔、誕生日に買ってもらった奴や」  走らせてみようと思ったけど電池が切れていた。  さらに奥からは、小さな箱に入った、D51のミニプレートが出て来た。手に取ってみるとズシリと重い。ぶんちんみたいな感じや。  あー、これは、じっちゃんに大阪弁天町の交通科学博物館に連れていってもらった時のお土産や。楽しかったなー、駅からすぐで、環状線で弁天町近づくとワクワクしてくんねん。0系新幹線があって、リニアモーターカーがあって、外には蒸気機関車があって…… リニアモーターカーはよ乗れるようになるとええな。  わいは、手に持ったD51のミニプレートを見ながら思い出した。  そしてジオラマや、何べんもみたなー…… なんか電車乗って夢の国にでも行くような感じやったなー…… じっちゃんに、いい加減帰るでって言われて、このD51のミニプレートを買ってもらって帰って来たんや。重いなーコレ。この重さが本物っぽくて、ええねん。宝物や。 (※2014年4月6日 大阪弁天町の交通科学博物館は閉館しました、京都鉄道博物館に引き継がれています) 「ウワッ」  部屋に入って来た姉ちゃんが声を上げる。 「なっちゃん、部屋片付けてたんちゃうの?」 「うん。まあ。……あ、姉ちゃん、プラレールやらへん?」 「やらへん。私、忙しい。コレから、陽子ちゃん家行って遊ぶから」 「あ、そう」 「早く片付けや」  そう言って姉ちゃんは、そそくさと部屋から出ていった。  部屋に残ったわいは、母ちゃんのところに行って電池をもらって来た。そしてブルートレインを走らせる。グルッと周回コースを回るブルートレインを見ていると何だか、ちょっと寂しくなって来た。交通科学博物館のジオラマ(模型鉄道パノラマ室)を見ている時も、そんな時があったな。夕暮れから夜の照明になって、電車がその中をライトをつけて走っていく。何だかちょっと物悲しくて、しんみりしてまう。1日が終わる。あー、終わってまう…… なんか、寂しくて、寂しくて…… 泣けて来た。  でも、模型鉄道パノラマの最後は照明が明るくなって朝になって、新しい1日が元気よく始まるんや。そう、いつも最後はちゃんと朝になってお終いや。わいは、走るブルートレインを見ながらそんなことを思っていた。  そして今度は、はしゃぐ しんちゃんの笑い声が頭の中にこだまして、笑えて来た。ハハハ。 「ウワッ」  といって母ちゃんが部屋に入って来た。 「な、何? 笑いながら泣いてんの?」 「いや、何でもないんや」  わいは腕で涙を拭いた。 「ま、嫌なら別にあげなくてもええよ、ちょっとスペース作るの頑張ってみるから」 「ううん」  と首を横に振り。 「いい、これ しんちゃんにあげてもええかな」 「でも」 「喜ぶやろ、きっと。『ウヒョー』って言うんちゃう」 「……そう」 「へへへ」  わいが笑うと、母ちゃんは、もう三角形ではない優しい目で見てくれていた。 「あ、でも、コレとコレは取っとこう」  そう言って、わいは D51のミニプレートとブルートレインを棚の上に飾った。  そして残りの線路は段ボール箱に仕舞っていく。  しんちゃん喜んでくれるといいなー……
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