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やっと、部屋全てが片付け終わった頃には夕方になっていた。
その間に、母ちゃんに怒られること6回。怒りすぎやろ!!
わいは綺麗になった部屋の中で大の字になって寝そべり休憩した。本棚の本も綺麗に並べ終わって、すっきりや。フーと一息ついて起き上がったとき、その本棚の端に手作りに絵本を見つけた。「懐かしー」と思ってその手作り絵本を取ってみる。それは、わいが大好きやった母ちゃん手作りの絵本。「だれが いちばん はやいかな?」というタイトルの本で、擬人化されたかわいい3人の新幹線の絵が描かれていた。
小高い丘の原っぱの中心に笑顔で仲良く遊んでいる、こだま君と、ひかりちゃんと、やまびこくん。
「なつかしーなー」
そう呟いて、絵本を手に取って見た。端っこを閉じ紐で閉じただけの簡単な作りの絵本。だいぶ、画用紙の端っこがヨレヨレになっていた。あの時は電車が大好きやったからこの本ばっかり読んでもらってたもんなー。
: : :
その日の晩、わいは寝るとき、母ちゃんにこの絵本を持っていったんや。
「母ちゃん、これ読んで」
「どうしたん? 珍しい」
「片付けした時見つけたんや。懐かしいやろ」
「じゃあ、今日は特別」
「やったー!」
ちなみに、わいはこの頃、寝室で母ちゃんと父ちゃんの間で寝てたんや。春に一度、姉ちゃんと一緒に子供部屋に寝たんやけど、その、あの、やっぱりゆっくり寝れるから、こっちの部屋で寝ることにしたんや(※その辺の事は、「その4話」に書いています)。やっぱり睡眠って大事やで。みんなちゃんと寝れてる?
ちなみのちなみに姉ちゃんは子供部屋で一人で寝てるわ。ちょっと尊敬。
風呂上り髪を拭きながらやって来た姉ちゃんが、絵本をみて呟いた。
「なっちゃん、いつまでも赤ちゃんやなー」
「赤ちゃんちゃうわ」
「うそー。でっかいでっかい赤ちゃんやん」
「あほ!!」
えー、さっきの「姉っちゃんをちょっと尊敬」は取り消すわ。
「ねえちゃんにも読んだけよか。本棚にメイちゃんのもあるでしょ」
母ちゃんが、わいの本を持ち上げながら言う。そうそう、そう言えば姉ちゃんには姉ちゃん用の別の手作り絵本があったわ(その話はまだ後日のお話で)。
「わたしはええ。そんなんとっくの昔に卒業や卒業」
そう言って姉ちゃんは部屋に戻っていった。
母ちゃんは「卒業ねー」と小さく呟いて絵本を開き、
「じゃ、コレ読んで、サッサと寝よう。もう結構いい時間よ」
そう言って わいを見て微笑んだ。
: : :
そして、布団に入って絵本を読んでもらう。
「だれが いちばん はやいかな?」
最初のページは、小高い丘の上の草原広場。線路が何本か広場に繋がっている。天気が良く、遠くの方にはキラキラ輝いた海も見える。広場の真ん中には、擬人化した丸いお鼻の新幹線「こだま君」と、リボンを付けた「ひかりちゃん」と、緑のラインが格好いい東北新幹線「やまびこ君」が描いてある。
「あるひのことでした、しんかんせん の こだまくん、ひかりちゃん、やまびこくんが おかの うえで あそんでいると
『ねえねえ、でんしゃのなかで いちばんはやいのって だれだろねー』
と こだまくん が いいました。
それを きいた ひかりちゃんが むねをはって いいました。
『そんなの わたしに きまってる。だって、ひかりの はやさって めに みえないくらい はやいんだよ。だから『ひかり』って なまえの わたしに きまってるわ♪』
やまびこくんも いいました。
『いやいや。ぼくが いちばんに きまってるじゃないか。だって、きみたちは ゆきが ちょっとつもったら はしれないじゃないか。ぼくは スイスイはしれるからね』
ひかりちゃん、やまびこくんは それぞれ
『ぼくが、わたしが、いちばん いちばん」
といって ききわけません。
こだまくんが 『まあ、まあ、やめなよ』といっても おさまりません。
そこで、みんなは
『よーし、じゃあ きょうそう だー!」
といって、うみ までのみちを だれが いちばんはやいのか きょうそう することにしました」
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