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12歳の時、母が再婚をした。「おめでとう」なんて言えなかった。父親ができると知った時、僕は何と言ったけ?
「うん」「ふーん」「そう」 なんて言葉を並べてた気がする。
中2の時、先輩達に交じってレギュラーになった同級生に「おめでとう」って言えなかった。彼は誰よりも上手だったから、悔しいなんて気持ちもなかったはずなのに、どうして言えなかったかな?
中3の時かな、周囲でカップルが誕生したりしてたけど、「おめでとう」なんて思いもしなかった。推薦で進学が決まった奴に、教室で「おめでとー!」なんて声があがっていたけれど、僕は言えなかった。
まだ次が決まってもいない僕が言うのは、なんかちょっと違うような気がしてしまって。
高校の時も同じような感じで僕は全く進歩なし。むしろ後退?
一足はやくレギュラーになった同級生にかける言葉が見つからない。でも、この時は、なんかちょっと、悔しかったんだよね。僕が選ばれてもいいんじゃないかって思ってた。
高校3年、推薦で進学先を早々と決めることができたから、後輩からは「おめでとうございま~す」って何度か言われた。「ありがと」って返すぐらいはできたはず。
でも、2月3月、有名大学に合格した友達に、僕は「おめでとう」って言えたっけ? 浪人が決まった友達に僕は何て言ったけ?
20歳、全国チェーンの飲食店でアルバイト。
そこの店長はまだ20代後半で若いのだけど、スタッフの誰からも慕われていて、「この人のためにも頑張らなきゃ」って、思わせるほど素敵だった。
スタッフの誕生日は全て把握していて、「おめでとう」って言って、お菓子とかドリンクとか、ちょっとしたものを渡してくれる。
「お酒が飲めるようになりました~」って言った僕には、アルコール飲料をプレゼントしてくれたり。
「車の免許とれた~」「簿記の試験うかった~」「彼氏できた~」「就職きまった~」「結婚します」「子供が~」「旦那が~」って、みんなが自分のちょっとした喜びを伝えまくる。「卒業」とか、退店されてしまう報告は、お店にとっては、必ずしもプラスではないのにね。いつだって、明るく、
「おめでとう!」
って、言葉を発する20代後半、既婚、一児の父親の店長だった。
僕は彼にすっごく魅せられていたから、ちょっとだけ真似をしてみる。
「おめでとう」って言葉が少しづつ使えるようになっていく。
周りの人の、ちょっとした喜びに、
「おめでとうございます」
ってあわせるだけで、会話が膨らむ。関係性が近くなる。そして別の喜びも教えてくれる。
「うわぁ、おめでとうございます!」
表情も、だんだん上手く作れるようになっていく。
人付き合いが苦手というか、「そういうのどうでもよくない?」なんて思ってた僕が馬鹿でした。
あのままだったら、暗い青春時代どころか、一生、暗い道を進んでいったのではないかと思う。
「口先だけでいいの?」「正直に生きろ」なんて言わないでよ。
例えばさ、アイドルの最終オーディション、1位に選ばれた人に対して、負けちゃった人たち、笑顔で「おめでとう」って言ったりするよね。
内心は悔しくて仕方ないのに。大声で泣き叫びたいのに。ふざけんなって怒りたいのに。だって、それだけの努力をしてここまで来たんだ。
悔しさを、悲しさを、怒りを涙をこらえてさ、最高の笑顔を作って、勝者に「おめでとう!」っていう、あの精神力の強さを、今の僕は「すごい」って思えるようになったよ。
他人の喜びを祝ってあげれるようになったよ。
この2年で、ちょっとだけ、人間的にましになったと思うんだよ。
だから、付き合ってくれる彼女ができたのだと思うし。
心の中の思いと、口から出る言葉と表情がいずれも異なるのは人間だけかな?
行き過ぎて、心を壊してしまう人もいるけれど。
心の中と言葉が心底一致する「おめでとう」って、一生に何回あるのかな?
実はもうすぐ、言う機会があるのです。
「結婚、10周年おめでとう!」
って、母と義父に言わなきゃ。
10年前に言えなかった分まで、大きな声で言わなきゃ。
END
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