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「輝子ちゃん、綺麗!」
美容院から帰ると、お母さんが声を上げた。そもそも成人式に行くつもりはなくて、着物なんて着る気もなかったけれど、お母さんが『大切な日なんだから』と譲らなかった。
「馬子にも衣装」
お父さんがそう言うと、「私も若い時、言われたなぁ」なんて、お母さんが呟いた。還暦を過ぎても、まだまだ子どもなんだなと思うと、なんだか笑えた。
家族四人、晴れ姿で向かった先は、地元の写真館。七五三、入園、卒園、入学、卒業。仕事が忙しく、なかなか学校行事に参加できない両親ではあったが、節目にはこうやって時間を作り、家族写真を撮って残してくれるのだ。
おめでとうの数だけ、増えていく家族写真。
「次は、結婚式かな」
「あん? 結婚だと? 輝子、いい奴いるのか?」
冗談で言ったのに、お父さんが聞き捨てならんと言わんばかりに目を光らせた。
「さぁ、撮影も終わったし、美容院に行ってくる!」
「え? もう行っちゃうの? せっかくの晴れ姿なのに、もうちょっとお母さんに見せてよ」
お母さんが名残惜しそうに言ったけれど、成人式を迎えたら、いちばんにしたいことがあった。
「ヘアドネーションしたいから」
「ヘアなんちゃらってオマエ、外国人の男でもいんのかよ?」
的外れなことを言うお父さんに手を振ると、着物のままで駆け出したい気分になった。
おめでとう。今日から娘は、大人の仲間入りです。でも、ずっとふたりの子どもだから。これからも、よろしくお願いします。
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