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事件は今週月曜日に起きた。夫を仕事に送りだしたあと、自宅に生後十ヶ月の男児といた主婦が、無惨な他殺屍体で見つかった。物が倒れるような異様な音がした、子どもの泣き声や悲鳴が聴こえたといった通報がいくつか付近の住民から寄せられたため、ようすを窺いにきたパトロール中の警ら隊によって事件は発覚した。
洗濯物を干していた二階ヴェランダ窓から、犯人が土足で侵入したらしき痕跡が残されており、主婦はその部屋のなかで背後から羽交い締めされたうえ、馬乗りに強く押さえつけられ、最終的には素手で首を絞められ亡くなったようだった。隣室ではベビーベッドの上に、顔面を圧迫され窒息死した赤ん坊の遺体も、タオルケットがかぶせられたまま放置されてあった。
ただし女性がレイプされた形跡も、室内を物色したような形跡も全然なかったことから、強姦や強盗目的の犯行である可能性は非常に薄いとして、当初から捜査方針はべつにあった。のちのち被害者遺族の男性に確認してもらったところ、やはり現金やカード類や貴金属等これといってとくべつなくなっている物も、所定の位置から動かされているような物もたぶんないとのことだった。ただ、物干し竿に掛けてあった洗濯物がまとめて端へ乱暴にどけられ、ヴェランダ窓が開けっ放しになっていたこと、あとはところどころ床や廊下に点々と足跡がついていて、玄関の鍵が解錠されていたということだけである。
報道はされていなかったが、警察は早い段階から被疑者を特定していた。というのも、犯行は午前中の出来事であり、通勤通学後のことでその近辺の住宅地から大半の人が出払っていた時間帯でもあったものの、専業主婦や年配者で在宅している住民もままいたので、犯人らしき不審人物を眼にしたという目撃証言を得ることがまずできたのである。
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