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証人の話を総合すると、校区がちがうがおなじ市内にある公立中学校の制服を着て、鞄を手にもった十代の男の子がひとりで、しばらくの間その家の二階ヴェランダを見上げたり、周囲をぐるぐる挙動不審なようすで終始うろうろしていたという。また、警官が駆けつける直前には、あわてふためき鞄を胸に路地を走り去る中学生の後ろ姿が見られてもいる。
捜査対象が未成年である可能性が出てきた時点ですぐに、ことは慎重に進める必要があるとして、報道管制も敷き、初動から捜査は極秘裏におこなわれた。くだんの中学を調査すると、事件当日に学校へこないで結局、休みあつかいになった男子生徒がたったひとりだけいたことがわかった。現場宅にはひとつもなかったが、となり近所に設置された防犯カメラや自家用車の車載カメラに録画されていた映像データからも、数多く確認はとれ、その不審者が十四歳の少年Aであるとはっきり断定された。
そういった聞きこみや裏づけは実質四日ほどでほぼほぼ終わっており、問題はAを確保する日時をいつにするかだった。逃亡のおそれはほとんどないとしても、本人に捜査の手が間近まで伸びてきているのを少しでも察せられてしまえば、何らかの証拠湮滅や隠蔽工作をされてしまうおそれは多少なりともあった。事件の性質上、短期間のスパンで次の犯行に移るという可能性は低いとの意見が本部内で相当数を占めたとはいえ、ただでさえ多感な年頃であることを思慮すれば、自殺する可能性も完全に否定できない。
さまざまな諸条件を加味し学校やほかの生徒父兄への影響を考慮して、身柄確保は事件発生から五日後金曜日の今日、Aの帰宅時になった。報道陣や野次馬がむやみに集まるなどして、周辺地域が大騒ぎになるのを避けるためにもすみやかに、ちょうど学校から自宅に帰ってきたときを警察はねらった。前日から張りこみと尾行をおこない、Aが玄関のドアを開けようとしたその瞬間、数人の私服刑事が被疑者をとり囲んだ。警察手帳を呈示され、任意同行を求められたAは、突然のことに動揺を見せるわけでも暴れるわけでもなく、たんたんと受け答えし署へおとなしくついてきた。
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