少年A

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 現実はしかし、そのような事実関係は皆無に等しく、被疑者と被害者に何の接点も存在しなかった。双方の所有する携帯端末、PC等の内部外部問わずデータファイルやインターネット上のさまざまな履歴を徹底的にあたったものの、どれほど調べてもメールやコメントのやりとりはおろか、ふたりに共通する何か趣味なりアクセス先なり偶発的にでも重なるものはゼロだった。といっても、たがいに面識がまったくなかったとはいえ、さすがに生活圏が近いということもあり、意識せずとも何度か何かのおりにたまたま、どこかの路上や店舗ですれ違うことくらいはあったはずである。  ほんの少し、そこで刑事は気になることにおもいいたった。なぜAは、自分の通う中学校へと向かういつもの通学路から、少し離れた被害者宅のあたりを訪れることにしたのか──。偶然か、意図してなのか。何か目的があったのか。目的といえば、Aは殺人それじたいのみ(、、)が目的だったと、みずから理由を語っているが……。だとすると、殺人の標的(ターゲット)は偶然あの主婦と幼児になったというのか。それとも、計画的に事前にねらいをつけていたのか。  いずれにしても、動機が純粋殺人であることには変わりない。がしかし、突発的というのならともかく仮に計画的になのだとしたら、犯行直前の行動があまりに()ではないか。下調べしていたというには、さかんに周囲の眼を気にしながら近所を彷徨(うろつ)くさまは、あまりに不審者まるだしであろう。家のなかにむりやり押し入った感のある侵入手口も、被害者ふたりを殺害した際の、凶器も何も用意していなかった犯行手段も、あまりに場当たり的で無計画的にすぎないか。事前にある程度シミュレーションすることも必要な道具を準備することもできたのにもかかわらず、である。
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