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Ⅲ
次の日。朝早く孤児院を飛び出して行ったトムが、興奮気味に帰ってきた。
「見ろよ、これ!」
その手には、花弁が1枚欠けた百合が握られている。
「なによ、ただの花びらのない百合じゃない」
叩き起こされ、不機嫌そうなキャシーが目をこすりつつそう言う。
「違うんだよ、これ、俺が血を垂らして置いておいたものなんだ! 成功したんだ! 今日の夜、おばあちゃんに会える!」
トムは祖母に育てられた。両親は早くに病気で亡くなったらしい。だから、よく祖母に会いたいとぼやいていた。
「でも、本当に会えるかなんてわからないじゃない。今日の夜が来ないと」
強がってそう言うキャシーは小さく震えていた。エミリーがその手をぎゅっと握る。
「ね、本当ならママに会えるかもしれないね」
微笑むエミリーにキャシーもぎこちなく微笑んだ。
「そうね、ママに会いたいね」
賑やかな3人を、デイビッドが不敵な笑みを浮かべて部屋の隅から見つめている。僕は見てはいけないものを見てしまった気がして、慌ててベッドに潜り込んだ。
そしてその夜、トムは意気揚々と町のはずれにある墓地に赴いて行った。
しかし、それがトムの姿を見た最後になった。
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