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第3話 これは一体何でしょう?
「何ですって?!赤と紫をこよなく愛するユリアお嬢様から…ケ、ケバケバしい部屋と言う言葉が出てくるなんて…!」
メイド長は興奮しすぎたのか、ぐらりと身体が大きく傾く。
「キャアッ!メイド長っ!」
「しっかりして下さいっ!」
「逝くのはまだ早すぎますっ!」
大げさに騒ぐメイド達。ところで…いい加減着替えさせて貰えないだろうか…。
「あの、それよりも先に着替えをしたいのだけど!服は何処にあるのかしら?!」
私は半ばヤケクソになって大声で言った。
「本当に…何もかも覚えていらっしゃらないのですね…」
メイド長が何処からかハンカチを取り出し、額に浮いた汗を拭いながら言う。
「だから、さっきからそう言ってるでしょう?」
これ以上話をこじらせないために、多少横柄な態度を取っておいたほうが良いかも知れない。
「これは大変申し訳ございませんでした。ユリアお嬢様の服でしたらお隣のお部屋が衣装部屋となっております。部屋の扉はあちらでございますので、お召し物はお隣のお部屋でお選び下さい」
メイド長が指し示した方向には確かにアーチ型の扉がある。
「え?そうだったの?」
「はい、左様でございます」
まさか、隣の部屋が衣装部屋になっているなんて…。
「後ほど、このお屋敷の主治医のドクターにユリアお嬢様の診察をお願いしておきますね」
「ええ。そうね。頼むわ」
ドクターに診察してもらえれば、記憶喪失が治るだろうか?しかし、衣装部屋に専属ドクターとは…一体この屋敷はどれだけお金持ちなのだろう?
「それにしても…」
メイド長の言葉はまだ続く。
「どうかした?」
「いえ…記憶が無くなったと言う割には…どこも異常があるように見えませんが…いえ、むしろ今のほうがずっとまともにみえます」
「え?そ、そう?」
すると私の言葉に一斉に頷くメイド達。今までの私って一体、どんな人間だったのだろう…。いや、まずはそんな事より先に着替えだ。
「それじゃ、着替えてくるわ…」
「お、お手伝い致します…」
先程と同じメイドが進み出てくる。ひょっとすると彼女が私専属のメイドだろうか?」
「ええ、そうね。手伝って貰えると助かるわ」
何しろ、何処に何があるのか今の私にはさっぱり分からないのだから。
「それじゃ、早速着替えをするから一緒に衣装部屋に来てくれる?」
「はい、ユリアお嬢様」
恐らく私専属のメイド?を伴い、衣装部屋へ向かおうとした時にメイド長が声を掛けてきた。
「ユリアお嬢様」
「何?」
振り返ると、メイド長は右手に花瓶を持っている。え?花瓶?いつの間に…。
「これは一体何でしょう?」
戸惑う私にメイド長は大真面目な顔で尋ねてきた。
「花瓶に決まっているでしょうっ!」
「せ、正解です…」
メイド長は驚いた様子で私を見ている。
全く…この屋敷のメイド達は何処まで人の事を頭が狂った人間だと思っているのだろう?言っておくが私は記憶を無くしただけで決して気が狂ったわけではない。この先もこんな調子で狂女扱いされては溜まったものではない。ここは少し釘を刺して置いた方が良いかもしれない。
「一つ言っておくけど…」
「は、はいっ!」
メイド長はビクリと返事をする。
「今後…下らない質問をした時には…容赦しないわよ」
いかにも悪女っぽく言ってみる。
「は、はい!申し訳ございませんでしたっ!」
怯えた顔つきで頭を下げるメイド長。そして他のメイドたちも一斉に頭を下げる。
「それじゃ、衣装部屋に行くわよ」
「は、はい…わ、分かりました…」
私はすっか怯えてしまったメイドを従えて、衣装部屋へと向かった―。
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