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第55話 違和感
私は先程の数学の小テストとジョンの言葉で目が覚めた。記憶喪失だった頃の自分がどんな学生生活を送っていたのかは全く不明だが、今は何一つ過去の記憶を失っている。これはひょっとする新たな自分に生まれ変われという啓示なのかもしれない。
そこで私は2限目の歴史の授業も3限目の文学の授業も、4限目の地学の授業も先生の言葉を一語一句聞き漏らさないように必死になって授業を受けたのだった―。
キーンコーンカーンコーン
4限目の授業終了のチャイムが鳴り響き、先生が教室から去っていった。
「つ、疲れたわ…」
机に思わず突っ伏す私。するとフワリと頭に手が乗せられた。
「…？」
思わず顔を上げると、そこにはジョンが満面の笑みで私の頭を撫でてている。
「ちょ、ちょっと何してるの？子供じゃあるまいし、恥ずかしいじゃない。一体どういうつもりなの？」
ジョンの手を払いのけながら尋ねた。
「ああ。ユリアがずっと真面目に授業を受けていたから褒めているんだ」
そして再び私の頭を撫でる。
「褒めてもらえるのはありがたいけど、小さい子みたいに頭を撫でるのは辞めてほしいわ。他の人達に見られたら…」
言いかけた時、何やら視線を感じた。
「…？」
視線を追うと、そこには嫉妬にまみれた目でこちらを睨みつけている複数の女子学生達がいる。
ああ…そう言えば彼女たちは昨日ジョンが転入してきた時、きゃあきゃあ騒いでいたかもしれない。
「ちょっと、ほんとーに辞めてくれる？私とジョンの仲を嫉妬している人達がいるから」
小声でジョンに注意する。
「俺達の仲を嫉妬している？それこそありえない妄想だな。まぁいい、兎に角もう昼だ。食堂に行くぞ」
「ええ、そうね…頭を使ったからお腹が空いたわ」
そして私は背後から女子学生達の鋭い視線を感じつつ、ジョンと学食に向かった―。
＊＊＊＊
「ユリア、あの席が空いている。座ろう」
「ええ、そうね」
偶然空いていた長テーブルの窓際の席に向かい合わせに座るとジョンが言った。
「俺はAランチにするが、ユリアもAランチでいいよな？」
「そうね、特に何を食べたいか考えていなかったから同じでいいわ」
「よし。なら買ってくるからここで待っていてくれ」
「ありがとう」
そしてジョンはメニューを注文しに、カウンターへと向かった。
「ふぅ〜…それにしても本当に疲れたわ…」
ため息をついて、窓から見える中庭の景色を眺めていた時―。
「ユリア、探したぞ？ここにいたのか」
「え？」
顔を上げると、ベルナルド王子が立っていた。その背後には腰巾着マテオと他2名の姿もある。
「おい、お前たちベルナルド王子がこの席に座りたがっているんだ。譲ってやれ」
銀の髪の青年があろうことか、隣りに座っていた4人の男子学生達に命令する。
「「「「…」」」」
4人の男子学生達は無言でベルナルド王子たちをに見つけていたが、1人の学生が言った。
「おい、行こうぜ」
「ああ、そうだな」
「偉そうに…」
「チッ！」
彼らは自分たちの機嫌の悪さを隠しもせずに、乱暴に席を立つと食事の乗ったトレーを持って立ち去っていく。
「…」
私はその光景を呆気に取られて見ていた。…信じられない、ベルナルド王子は仮にも王子。それなのにあんな態度を取って立ち去っていくなんて…。一体この世界の概念はどうなっているのだろうか？王族にあんな態度を取るなんて普通に考えればありえない。私としては非常に違和感を感じるのに、何故誰も変だと思わないのだろうか…？
「全く…気に食わん連中達だったな」
ベルナルド王子はため息を付くと、勝手に私の隣の席に座って来ると声を掛けてきた。
「ユリア、お前に話がある」
その視線は…相変わらず厳しかった―。
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