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――グソンは、ドンレの部屋で朝を迎えることはなかった。
一夜の幻想ほど心地いいものはないなどと、見え透いた言い訳をして、早々に役目から逃げおおしていたのだ。
男を亡くした宦官だけに、義理で女を抱くことは、苦痛以外なにものでもない……。
すっかりと夜は更けて、ぼそぼそと燃えるたいまつが、後宮の廊下を照らしている。
歩むグソンの顔は歪んでいた。
明日も通わなければ、ご機嫌を損ねるだろう。
「そういえば、明日は、南の将様からお声がかかっていたはずだ。これはまた、体が一つでは足りないな……」
色の道は人それぞれで、特に都の南に住む、さる武人は、ことのほか宦官をひいきにしている。
しかし、この道は決して大きな声で言えるものではなく、あえて、南の将とぼかすのが嗜みというもの――。
「まあ、いいだろう。今から、先のことを考えても仕方ない……」
グソンの呟きは闇に消えた。
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