一章「三」

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「おや。どうされました?ああ。ウォル様が参られたのですね?」 「ええ。またジオンに追い出されたのよ」 「ミヒ様?そうふくれては、ジオン様に嫌われますよ。あのお方に嫌われては……」 「そうね。そうね。ユイ。お前も今さら実家に戻ることもできないし、他の侍女たちも路頭に迷ってしまうのでしょ?」 ミヒの不機嫌さに、微笑みかける、ふくよかな女――、ユイ。 ミヒの髪を無意識のうちに、いとおしそうに撫でている。 彼女は、ジオンがミヒの乳母にと連れてきた女であった。 ユイは意に沿わぬことが多い立場のミヒを哀れに思い、実の娘のように接していた。 この部屋は、ちょうどミヒの部屋の反対側、屋敷の西の棟のはずれにある。
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