一章 「一」

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「どうした?」 ミヒが目を開けると、確かにジオンがいた。 飛び抜けて美男というわけではないが、一国の王らしく、(りん)とした顔を何やら曇らせている。 「また、見たのか?いつもの夢を」 「ええ」 「気が立っているのか?ん?」 川面に突き出す崖から、色とりどりの花びらが、風に乗って舞い落ちていく――。 ミヒがこの夢を見るたび、ジオンの機嫌は悪くなる。 今夜もまた、渋い顔つきで寝台をぬけだすと、黙って蝋燭の明かりを灯した。 ……どうして、ジオンがいる時に、この夢を見るのだろう。 灯った明りに気付いた侍女に、なんでもないとジオンは声をかけていた。 なんでもなくはない……。このまま帰ってしまうのに。 ジオンに背を向けるように寝返ると、ミヒは目を閉じた。
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