一章「四」

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一章「四」

宮殿には、三つの核がある――。 他国からの来訪を受ける外朝(がいちょう)、政の執務を取り仕切る治朝(ちちょう)、王の住処(すみか)を守る燕朝(えんちょう)である。 それらの顔となるのが、王座が備わる正殿――。 何事も、最後はここに上げられて、王をまじえての決議に至る……。 審議が終わったばかりなのか、正殿に続く廊下を、紺の衣を纏った男達が歩いている。 暫く歓談していたが、足早に各々の持ち場へと消えて行った。 焦れた足取りで、ジオンがやって来た。 (……どうにか大臣達の機嫌はとれたようだ。) 彼らは、王座に()する主を前にして、吐き出すように陳情すると、笑みを浮かべて平伏した。 (来月の式典がどうのと言っていたが……。) 自分の婚礼と聞かされても、他人事のようにしか思えない――。 役目をはたしたジオンの心は、ミヒのところへ向かっている。 側にいると言っておきながら、宮殿に戻った。さぞや機嫌を損ねたことだろう。 気もそぞろに歩んでいる後を、さわさわと衣擦れの音が追いかけてきた。
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