一章「四」

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――回廊は長く伸びる。行く本も我先へと伸びている。まるで、政の表舞台へ躍り出ようと競い合う男達のように。 後宮へ戻るドンレの心は焦れていた。 (……王は妃に手を出さないつもりだ。そんなに、あの小娘のことが!) つと、彼女の視界に黒衣が飛び込んできた。 宦官の列が、書庫房へ抜けるくりぬき門をくぐっていた。後尾には、見知った顔があった。 とっさに、ドンレは懐から手布(ハンカチ)を取り出し、投げ落とした。 「これ!どなかた落としましたぞ」 女官長の声に、ぴくりと動く体が見え、そそくさと男が一人歩み出た。 「これは、粗相をいたしまして……」 落ちる手布を、グソンが拾った――。
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