120人が本棚に入れています
本棚に追加
――軽やかな笑い声が響く中、小船は悠々と水路を進んで行く。
「ああ、もっと、ウォル、もっと早く!お願い!」
ミヒは、船縁から身を乗り出して、声をあげた。
手で、沸き起こる水面の波を探っては、船頭役のウォルに、櫓をこいでくれと、ねだってばかりいる。
ジオンは、はしゃぐミヒを眺めつつ、船首に取り付けられた天蓋の下に、体を投げ出していた。
同時に、ウォルから、ミヒの落胆振りを聞かされていただけに、はしゃぐミヒの姿に、胸をなでおろしている。
小船は、裏庭を目指し進んでいく。
屋敷内には、水路が巡らされ、裏庭の池へと流れこんでいた。
貴族の屋敷には、たいがい風水の理念から水路や、人口の池が備わっているが、都を探しても、船遊びができる規模のものはない。
ジオンは贅を尽くした。ミヒが屋敷で退屈しないようにという思いもだが、彼自身、楽しむことを考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!