一章「二」

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――ドンレのずる賢く光る小さな目は、黒衣を(まと)おうとしているグソンの体躯に釘ずけになっていた。 自分の寝室に、男を忍ばせていることが発覚すれば やっとの思いで上り詰めた女官長の地位など、いや、命がなくなるに違いない。 だが、グソンは後宮に立ち入りを許されている宦官。 男とはいえないだろう。 それに……。 人払いする必要があるほど重大な話をしていたのだ。 (まつりごと)のために、グソンと会っていただけなのだから……。 よりよき政のための、密な語らいは、無事終わった。 その証しに、男の体は衣装に包まれてしまった。 ドンレは、目の前から若い肌が消えるのを苦々しく見た。 「王は、まだお下がりのようで。お陰で私も、こうして気兼ねなくドンレ様にお会いできます」 戯れに笑う、グソンの顔には、交わりの後の疲れなど微塵も読み取れない。
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