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いや、騎士といってもあまり裕福ではなかったせいか? 我が家は本というもの自体をほとんど所有していなかったのだ。
唯一あったものといえば、プロフェシア教の根本教典である『聖典』と、その注釈・追記といえる『聖釈』だけだった。
仕方なく我は、『聖典』に書かれた〝救世主〟にしてプロフェシア教の開祖、〝はじまりの預言者〟・イェホシア・ガリールの伝記に始まり、『聖釈』にあるイェホシアの直弟子〝十二使者〟や、イェホシアの後継者たる歴代の預言皇、その他聖人達の記録を読み漁ることにした。
「……へぇ〜…なんか、カッコイイじゃん」
ベッドの上で分厚い革表紙の本を夢中で捲りながら、若き日の我は思わず素直な感想を呟いてしまう。
当初は信仰に対してさほど興味もなく、『聖典』や『聖釈』をしっかり読むのもこれが初めてであったのだが、これが読んでみると意外や頗るおもしろい。
開祖イェホシアはもちろん、古の高名な聖人達の自己犠牲を惜しまぬその生き様は、冒険の旅をする騎士にも負けず…いやむしろ勝るくらいに格好良かった。
中でも特に心惹かれたのが、〝ワッチジのジョヴァンネスコ〟という聖人だ。
400年ほど前、ウェトルスリア地方ワッチジの裕福な毛織物商の家に生まれ、若き日には放蕩を極め、初めは騎士になることを目指していたのだが、ある戦いで捕虜生活を余儀なくされたのを機に世俗での成功の虚しさを悟り、騎士になる夢も財産もすべて捨てて清貧な僧侶となると、後に厳格なジョヴァンネスコ修道会を開く大聖人である。
また、地元にあるサン・ダミアン聖堂に参籠中、「神の家を再建せよ」とのお告げを受け、日々、街角に立っての説法に励むばかりか、異教徒のアスラーマ帝国に支配された聖地ヒエロシャロームにまで足を運び、異教徒への宣教活動にも率先して勤しんだという……。
この、プロフェシア教会において最重要ともいえる大聖人に、畏れ多いことではあるが我は自分の姿を重ねた。
ワッチジのジョバンネスコも我と同様、当初は騎士の道を志し、それを戦で負った失意の中に諦めた者なのだ……。
そんな、まことに勝手ながらもジョバンネスコに親近感を覚えた我が、かの大聖人に憧れを抱き、その生き様を真似ようと考えたのもしごく当然の流れである。
我もこれからは騎士道ではなく信仰の道に生き、各地に赴いては異教徒を改宗させ、ゆくゆくは自らの理想とする独自の修道会を開くのだ!
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