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「話って何ですかぁ?」
重い空気の中、菫がウイッグを指先でクルクルと巻いて遊んでいる。
自分が注意される立場だとわかっているのか、はぐらかしているのかわからないが、とりあえず態度が悪い。
「あのね。とりあえず、あなた勤務態度が悪いわよ。遅刻したり、急に休んだり……」
菫は下を向いていて、目線を合わせようとはしなかった。
「あと……。お客さんに横柄な態度を取ったり、逆にフレンドリー過ぎるところもあるし。昨日の桜ちゃんってお客さんに抱き付いていたでしょ?嫌がっているのに無理矢理触れていたってことで、大きな問題になることもあるんだから。あなたの態度、直してもらわないとSTARでこれ以上雇うことはできません」
蘭子さんは事実を伝え、感情的になることはなく、ゆっくりとした口調で菫に伝えた。
しかし――。
「遅刻とか、欠勤についてはいけないことだと思いますけど……。お客さんへの態度とかは悪いとは思っていません。他のキャストだって同じようなことしているのに、なんで私だけ注意されなきゃいけないんですか?ていうか、例えば、昨日の桜って子は、ボディタッチ喜んでましたよ。あの子みたいに触られるのが嬉しくて来るお客さんだっていると思いますけど……」
「ちょっ……!」
俺が言い返そうとしたのを蘭子さんは制止した。
「どこをどう見て喜んでいたって言うの?あの子、止めてくださいって言っていたじゃない?」
蘭子さんはあくまで冷静だった。
「止めてくださいって口では言っていましたけど、本当は止めてほしくないって思っている時あるじゃないですか?そんな顔してました。気持ちを汲んであげただけなのに。だってあの子、胸を俺の手……。私の手に押し付けてきたんですよ?まぁ。小さくて何も感じなかったけど」
何を言っているんだ。桜がどんな気持ちで……。
言いたくもないことを俺に伝えてくれて。辛いはずなのに無理に笑って。
「おい。黙って聞いていれば……」
椿から蒼に戻った瞬間だった。
ビクっと菫が反応した。
「なんですか?椿さんまで。私のこと、信じてくれないんですか?」
「椿、自分のお客さんだから大切なのはわかるけど、落ち着きなさい」
えっ?蘭子さんも声、今男に戻っていなかった?
「とりあえず、菫。あなたの話はわかった」
「はーい。じゃあ、帰っていいですか?遅刻とかは気を付けます」
菫が立ち上がろうとしたが――。
「明日からもう来なくて良いわよ」
「えっ?」
「あなたの態度が直るとは思えない。今日で解雇です」
「なっ?はぁ!?意味わかんねー」
菫は納得いかないといった表情で蘭子さんを睨みつけている。
「お客さんを大事にしないキャストは、ここには必要ありません。それに――。あんた、本当はオネエでもなんでもないでしょ?」
「はぁぁぁ!?」
「品がないのよ。まぁ、もういいわ。話していても時間の無駄ね。今日までお疲れさまでした」
蘭子さんがヒラヒラと笑顔で手を振っている。
その態度が気に入らなかったのか
「黙って聞いていれば!調子に乗りやがって!気持ち悪いジジイがっ!!」
菫が蘭子さんに殴りかかろうとした。
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