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「わたくしはヴァチカン教徒を騙った純自然主義者によって、この教会へと預けられました。『死してなお褪せぬ乙女がいる』と言って。教会はわたくしを受け入れ、奇跡だと信じて祀りました。ですが、わたくしが朽ちないのは当然のことです。なぜなら、わたくしはそもそも生き物ではないのですから」
硝子の棺に納められた彼女は、睡眠状態で長い年月を過ごす。いつか、目覚める時を待って。定められた日を待って。
彼女が目覚めた日。それがリベリオが発見した朝であったのは、偶然であると言わざるを得なかった。本来はもっと早く目覚めるはずであったものが、長い睡眠状態の間に設定が乱れ、予定よりも大幅に遅れてしまっただけのことであった。
覚醒直後の彼女は、自らの使命を覚えていなかった。そのようにプログラムされていた。彼女が使命を思い出したのは――本当の意味で覚醒してしまったのは、初めて教会の外に出たあの日だと言う。他ならぬ太陽の光が覚醒のキーになっていた。
「ですから、リベリオさま。わたくしは教皇聖下に謁見するわけにはまいりません。次に何が引き金となり、殺戮兵器としての第二の覚醒をしてしまうのかわからないのですから」
嗚呼。リベリオは悟る。
彼女はこの世界の秘密など。あの花園に隠されたものなど、とうに知っていたのだ。
はたして、リベリオはどうするべきであっただろう。
司祭にこのことを報告すべきであろうか。ただちにマリアを拘束して、何らかの方法で処分してしまうべきであろうか。
そのどちらも、彼にはできなかった。
選択を迫られた時、彼は同時に気が付いてしまったのだ。
自分が既に引き返せないほど、彼女を愛してしまっていることに。
そしてそれはきっと、マリアにとっても同じであった。
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