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鳥も、動物も死に絶えた。辛うじていくらかの昆虫が残るのみである。海は常に夜の色をして、人々は木というものを本の中でしか知らない。川も大地も汚染されており、少しずつ、ほんの少しずつ、残された人類を蝕んでいる。
彼らは、ただ死に向かっているのだ。
そのことに気が付いて絶望したその日こそ、人類滅亡の時である。
けれど、その日は再び遠退いた。
棺の中で眠る二人の遺体は、やはり朽ちることがなかったという。寄り添い合う恋人たちの死顔は、巡礼者たちに新たなふたつの感情を与えた。
希望と慕情。
褪せぬ恋人たちが育んだ希望と。
故郷に残してきた愛しき者たちへの慕情。
巡礼者たちはもはや断崖への道など振り返らない。
ここまで歩んできたはてしない旅路を引き返すだろう。
まだ諦める時ではない。
誰かを大切に想う気持ちが、きっとまた奇跡を起こすに違いないから。
彼らは未来への希望だけを抱いて、故郷への道を歩む。
fin.
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