1.硝子の棺に眠る乙女

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 褪せぬ乙女――彼女はただそう呼ばれていた――の世話をするのは、代々この教会の助祭の役目であった。決して起き上がることのない彼女が求める奉仕など、ごく簡単な掃除程度のものだ。現在ではリベリオという名の青年が務めている。  リベリオは毎朝礼拝が行われる前に棺を磨き、彼女の周りを生花で満たす。そして、祈りのための蠟燭をひとつ。  宵の口、聖堂を閉める時間になると、彼は再び乙女への奉仕に地下へ下りる。朝にはひとつだった祈りの灯火は、夜には数え切れないほどに増え、献花は小さな花園となる。彼はすべての蠟燭を消し、献花を回収して聖堂を後にする。  捧げられた花のうち、萎れたものは捨て、鮮やかなものは花瓶に活ける。翌朝再びその花を棺の前に戻すのだ。  花なんて、朽ちるまでそこに置いておけばいいじゃないか。  他の者たちはそう言うし、歴代の奉仕者たちもそうしていた。しかし、リベリオはそれが嫌だった。  永遠の美を与えられた乙女。  奉仕者も、参拝者も、捧げられた花たちも、どうしたって皆彼女を残して朽ちていく。いつまでも褪せることのない乙女は、きっとこれ以上それを見届けることを望まないだろう。  リベリオは。  枯れた花たちを選り分けている時、死神にでもなったような心地がしていた。
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