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2.乙女の復活
それは、ある朝突然に起こったことだった。
いつものようにリベリオが地下聖堂に生花を持参すると、なんと乙女が棺の中で目を開けていたのである。青く澄んだ大きな瞳で、訴えるように彼を見つめていた。
驚いた。しかし、驚愕は長く続かなかった。激しい危機感がそれを塗り替えたのである。このままでは彼女が窒息してしまう、という焦りが。
司祭に指示を仰ぐ余裕はなかった。彼はただちに倉庫へと取って返し、鑿と金槌を手にクリプトへ戻った。真鍮細工に縁どられた棺の蓋は、小さな鎖と錠前で封じられている。そこに鑿を当て、金槌を振り下ろす。
はたして、乙女は長きに渡る封印から解き放たれたのであった。
乙女の復活はマッダレーナ・マッジョーレ教会の威信をかつてないほど高めることとなった。
ヴァチカン教史上、死から復活した者はたったひとりしかいないのだ――他ならぬ、救世主ただひとりである。甦った聖女の話は瞬く間に世界中に広まった。
乙女の名前はマリアといった。いや、そう名付けられた。
長い長い眠りの間に、彼女は生前のことを何もかも忘れてしまっていた。
自分が何者なのかも。どうして死んでしまったのかも。
彼女が忘却したのは記憶だけではなかった。彼女は言葉も失っていた。
乙女はただ、無垢な瞳で不安げに教会の者たちを見回しただけである。
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